つくばみらい市農業実習 2015年度夏合宿 報告 亀有 碧

つくばみらい市農業実習 2015年度夏合宿 報告 亀有 碧

日時
2015年7月21日(火)〜22日(水)
場所
茨城県つくばみらい市寺畑(農業実習)、つくばみらい市筒戸2560 古民家・松本邸(合宿場所)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」
協力
NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」、東京大学大学院農学生命科学研究科

2015年7月21日より実施された「つくばみらい市農業実習 2015年度夏合宿」では、NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」(以下、「古瀬の会」と略称を用いる)の会員の方々と共に、農作業や、インタビューとその内容についての発表会を行った。古瀬の会は、田んぼアートや農作業体験の受け入れなど都市と農村の交流活動を行う団体である。私たちが2日間滞在した松本邸も、古瀬の会が管理する築150年の歴史をもつ古民家であり、その向かいには法人が管理している農園が広がっている。21日の午前中は、そのさつまいも畑で除草作業を行い、炎天下での農作業の過酷さを実感するとともに、手入れの行き届いていることに驚いた。午後には数人ずつのグループに分かれ、一方は古瀬の会の会員の方々に会の活動や今後の展望・課題についてインタビューを行い、一方は近隣の守谷市で運営されている大八洲開拓農業協同組合の関係者の方々に活動について伺った。

本報告書では今回の合宿を通して学んだ内容を以下の2点に分けて記す。1点目は、現在の古瀬の会の活動に示唆される、都市農村交流のあり方についてであり、2点目は古瀬の会が目指している農地集積や基盤整理、集落営農と、大八洲開拓農業協同組合の活動に示唆される農業と効率の問題である。興味深かったのは、古瀬の会が扱う課題が、日本全国で唱えられている現在の農業にまつわる課題をまさに集約していると思われたことである。1点目の都市農村交流は、一方で農村地域が抱える高齢化や過疎化によるコミュニティの崩壊と、他方で都市が抱える農村との心理的距離に起因する食への不安を、その双方の出会いによって解消することを目指すものである。2点目の農業とその経済効率の向上には、生業としての農業をいかに成立させていくかという課題が含まれている。従って、古瀬の会の活動を学ぶことができた今回の合宿は、全国的に適用しうる様々な方策が示唆される機会であった。ここで今回お世話になった方々に御礼を申し上げたうえで、下記に2点についてまとめる。

1.都市農村交流のあり方について

古瀬の会は、地域の農業の活性化のために地域の青年会を母体に発足した団体である。昭和30年頃から続く農地区分では大規模農業が不可能であったため、都市農村交流に着眼したのだという。古瀬の会は都市農村交流を長年にわたり成功させ、更にそこで有機農業などのチャレンジングな農作を行ってきたことで、既に述べた都市と農村の距離の解消や食の安全の確立に向けて一定の成果を生み出してきたと言えるだろう。その一方で、つくばみらい市の高齢化や過疎化が、古瀬の会内部においても会員減少という形で問題化してきてもいる。そこで、私がインタビューした古瀬の会の会員であるA氏のお話は、むしろそうした高齢化社会を逆手に取り、シニア世代の楽しみとしての側面を活用することで活動の存続が期待できるのではないかと示唆するものだった。

A氏は1946年生まれの元銀行員であり、古瀬の会がある寺畑地区に隣り合う細代地区のご出身である。ご自身の実家も農家だったものの、幼少期から農業の特に経済面における過酷さを体験してきたことから、A氏の古瀬の会へのご関心は生業としての農業よりもむしろ、楽しみとしての農業の方にあるようである。A氏は以下の4つの古瀬の会への参加のモチベーションを教えてくださった。1つ目は地域への恩返しがしたいということである。2つ目は収穫の喜びに代表される農作業自体の楽しみ、3つ目は子供とのふれあいの楽しみ、4つ目は共同作業で得られる楽しみだそうだ。2つ目から4つ目がすべて「楽しさ」に関するものだったところに、古瀬の会の活動の特色が表れているだろう。

今回のインタビューによって明らかになったのは、A氏のような退職後のシニア世代には、活動の楽しさが十分に参加の契機になりうるということだった。更に、そうした楽しさを高めることで、古瀬の会は農村地域における高齢者の生きがいや拠り所となるコミュニティとしても機能する可能性があるだろう。つまり、担い手の減少という古瀬の会が抱える課題は、むしろA氏のように活動に楽しさを見出す高齢者を会の主力構成員とできさえすれば、引退後の地元のシニア世代を巻き込んだ持続的活動とコミュニティの形成を実現するものともなるのである。そのためには同時に、活動の体力的な負担を軽減・分散させていく必要がある。分散の一案にはたとえば、サポーター制度の活用が挙げられるだろう。現在、古瀬の会が設けているこの制度は、活動に関心をもつ葛飾区の20人弱の市民をサポーターと認定し、日々のイベントに招待している。サポーターには子供連れの家族などが多く、年齢も比較的若いため、体力的なサポートを彼らが行うことができるだろう。

2.農業の効率化について

古瀬の会が目下目指しているのは、団体を基盤にして農地の整備や集積を行い、6次産業化も見据えた集落営農を実現することである。既に述べたように昭和30年代から続く区画は雑然としており、農地運用の点で非効率的であるそうだ。また集落営農は、単に経済効率を上げるだけではなく、地域の雇用先ともなることで、耕作放棄地が増え過疎化の傾向にある地域の人口維持・増加にも通じるのではないかと古瀬の会の方々は考えておられる。

集団での営農の先駆者として、もう1つのインタビュー先でもあった大八洲開拓農業協同組合の事例から学ぶことは多い。大八洲開拓農業協同組合は、戦時中の満州開拓団が引き揚げ後に日本各地に作った農業組合の1つであり、畜産業を行う生産者によって形成される。組合理事長であるB氏によれば、それぞれの生産者が家族経営であるが故にそれを支えるための横のつながりを重視しているという。具体的には農具のリースや家族の病気などの非常時における助け合いをその主な活動としている。病気などを患ったとしても仕事を休むことができなかったり、予期せぬ天候不良などの被害を受けることがある第1次産業においては、後者の「助け合い」という方策は軽視できない重要なリスク管理であろう。大八洲開拓農業協同組合の制度は、集団で協力しあうことで担い手の非常時にも対応できるという利点を示しているのだ。

したがって、農地集積と集団営農に求められているのは、生産性の向上と集団の維持の均衡だと言えるだろう。つまり、農地集積や各区画の大規模化によって生産活動の重なりを省略することで効率を向上し、生業としての農業を成立させることの一方で、非常時のリスクを軽減できる集団性の維持が求められているのである。

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報告日:2015年8月26日