つくばみらい市農業実習 報告 前野 清太朗

つくばみらい市農業実習 報告 前野 清太朗

日時
2014年6月21日(土)9:20−14:30
場所
茨城県つくばみらい市寺畑地区
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」
協力
NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」

 報告者らは6月21日、本学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻のご尽力を得てIHSが実施する農業研修に参加した。農学生命科学研究科からは小林和彦教授(農学国際専攻)、農学国際専攻および農業・資源経済学専攻の学生ら10数名が参加した。IHSプログラムよりの参加者は梶谷真司准教授ほか3名である。

 研修への参加者一同は9時20分に常総線小絹駅へ集合した。すでに梅雨入りはしていたが、湿り雨もなければ日のひどく照ることもなく外での作業に適した気候であった。この日は研修カウンターパートであるNPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」(以下、「古瀬の会」)のメンバーのご指導を受けながら、寺畑地区の無農薬稲田の草取りを行った。

 参加者一同、寺畑地区の「古瀬の会」作業場へ到着すると、会長の指示のもと、この日の草取り作業をする圃場へと向かった。みちみち過去の農業研修で田植えを行った圃場についても説明を受けたが、そのうち川べりの圃場のいくつかはこの先週の大雨で被害を受けていた。いくつか倒れた苗稲が持ち直して立ち上がった圃場もあったが、やはり倒れたまま駄目になってしまった圃場もあった。痛ましい光景を前にするわれわれへ「何年かに一度必ずあること」と会長は語った。

 無農薬米の圃場は一反ばかりにみえたが、茂る下草をみるとなかなか難儀の模様であった。下草も小さいうちこそ除草機での除去のしようはあれ、この圃場ではすでに根を張って大きくなってしまっているがゆえに人海戦術で何とかせざるをえないという。一同は裾をからげ、草入れのバケツを抱えて泥田に入った。寺畑一帯は地下水ポンプを使って灌漑を行っているため、足に触れる田の水はなかなか冷たい。私たちは一列に並び、稲の根本へまとわりつき「立派に」育った草をめいめい抜き取っていった。泥田だけに引きぬく面倒はさほどでないものの、草がバケツへ一杯となれば、いくぶん運ぶのに難儀となった。

 11時頃、小休止。それぞれ泥田の外に上がって「古瀬の会」手製の梅酢をいただいた。酸味と塩味が日なたで作業した身体へ染み渡った。ちょうどお昼の準備に人員がいるとの声がかかったため、報告者は一人圃場をはなれ「古瀬の会」の作業場に戻った。

 この日は昔ながらの羽釜を用意して米を炊くことになった。火を入れ、15分ばかり強火で加熱し、その後はひたすら蒸らせばよいという。炊く速度だけを考えるなら、電気釜よりもずっと速いほどであった。キャッサバなりバナナなりに比べて主食としてのコメの調理の早さ、とは文字で知った知識であるが、実際に直火で炊いたとしても確かに手間も早さもずいぶん簡便なのかもしれないと思われた。

 この日はちょうど翌日曜日の体験学習の準備のため、葛飾区内の博物館より学芸員の方2人がお見えであった。調理の間にお一方と会話を交わしたところでは、大学で民俗学を学び、学芸員の職をえたのち「古瀬の会」と協働しての教育活動に取り組んでおられるという。さまざまな民具をただ展示室に展示するのではなく、その道具が使われた知恵なり文脈なりまでを含めて伝えるようなミュージアムをめざしておられるのだという。

 ちょうど米も蒸らし終わったころ、作業班が引き上げてきた。米・味噌汁とともに用意して頂いたコロッケ・浅漬を一同でいただいた。

 午後は水田の草取りを一班が続けて続行するとともに、別行動の班が設けられた。ビワの実が収穫に丁度いい頃合いとの「古瀬の会」会長の言葉を受けて、別班はトラックに乗って収穫へと向かった。一方報告者は作業場に残り、米を炊いた羽釜としばし格闘することになった。たしかに羽釜で米を速く炊けたのは好調であったのだが、固まり釜の側面にこびり付いた米を洗い流す作業がずいぶんと難儀なものであったためである。羽釜そのものもなかなかの大きさであったから、力仕事といわずとも、なかなかの骨折り仕事であった。この日は14時半にすべての活動が終了した。参加者一同は現地で解散し、そののち各人駅に戻って帰路についた。

 偶然ながら、実地で体験教育に携わっておられる方と言葉を交わす機会に恵まれたのは報告者にとり幸いであった(普段は「古瀬の会」へ過度に負担とならぬよう、他団体との訪問の重複は避けておられるという)。お話を伺うにつけて、自身の学んだ学を次の世代に伝承する意識と視座に、頭を下げざるをえなかった。自身が先人の学を継承する必要、発展させる必要、継承した学を次の世代に伝える術を考慮する必要を強く感じさせられた対話経験であった。

報告日:2014年6月28日