「ワークショップ・研究成果をいかに社会実装するか?」報告 季高 駿士

「ワークショップ・研究成果をいかに社会実装するか?」報告 季高 駿士

日時
2018年10月3日(木)17:00 - 19:00
場所
東京大学駒場Ⅰキャンパス 18号館4階コラボ1
講師
曽山明彦 氏(一般社団法人 LINK-J理事/事務局長・厚生労働省医療系ベンチャー推進会議 構成員)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクトN「科学技術と共生社会」

2018年10月3日(水)、教育プロジェクトNによって開催された「ワークショップ・研究成果をいかに社会実装するか?」に参加した。講師の曽山明彦氏をお招きし、自分の研究成果をどのように社会実装していくかというテーマで講義していただいた。今回のワークショップにおいて学んだことを報告させていただきたい。

そもそも「社会実装」とは、得られた研究の成果を社会問題の解決に応用していくことを意味する。科学技術と情報通信技術(ICT)の発展やグローバル化の進展、さらに世界における様々な課題が複雑化するなど経済や社会が大きく変化する現在において、研究成果を社会に還元し社会変革に貢献することが強く求められている。しかしながらアカデミックにおける研究は企業のそれとは異なり、基礎研究段階のものが多く、研究成果を直接社会に還元することは難しい。大学における研究で新しい成果が得られた際にはまず「論文」という形にまとめることによって外部に発信する。論文化されたデータや手法を他の研究者が利用して次の研究に応用し、それが続いていくことで最終的に大きな成果となって社会につながっていく。そのため大学などの学術研究では、自分の研究成果が直接社会に還元されていると実感出来ることはあまり多くないように思える。しかし、自分の研究成果を社会にどう役立てることができるのかと自問し、社会実装に向けて努めることは大変重要なことである。そのために、報告者は今回のワークショップへの参加を決めたのである。

ワークショップは、まず参加者の自己紹介から始まった。今回参加した学生の中には「iPS細胞」や「CRISPR-Cas9」といった最近話題のテーマを研究している学生もいた。これらの分野は再生医療やゲノム編集といった最先端の医療に貢献しうると謳われており、研究成果の社会実装は近いと思われたが、このように社会に注目されている研究内容であっても、研究成果をどのように社会に応用していくかは個人にとって大きな課題となっているのかもしれない。

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今回のワークショップではスタンフォード大学のアルバート・ハンフリーが1960年代から70年代に考案した「SWOT分析」と「CROSS SWOT」について教えていただいた。「SWOT分析」とはまず企業や個人が置かれた環境を「内部環境」と「外部環境」に分けて考え、それぞれがプラスな要素か、それともマイナスな要素かを明確にして分析する手法である。2つの軸(内部環境 or 外部環境、プラス or マイナス)によって区切られた4つの領域が「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」となるのである。この分析結果を基に、今度は「CROSS SWOT」と呼ばれる手法を用いてとるべき戦略を練っていく。これは先ほどの「SWOT分析」によって得られた結果を「内部環境(強み、弱み)」と「外部環境(機会、脅威)」により4つの領域に分け、各領域にごとに戦略を練っていく手法である。例えば「強さ×機会」の領域においてはプラスとなる外部環境において自分の強さを十分に活かして最大限の効果が得られるような戦略を考え、一方で「弱さ×脅威」となる領域においては自分の弱さをカバーしつつ、外部環境によるダメージを最小限に抑えられるような作戦を練っていく。今回のワークショップでは2つのグループに分かれて、実際にこの「SWOT分析」と「CROSS SWOT」を用いて研究成果を社会実装させる戦略を立ててみた。時間の都合上、今回は「強み×機会」の領域についてのみ考えることになった。

まずは「SWOT分析」を用いて自分達が置かれている環境について分析した。内部環境におけるプラスの要素、すなわち「強み」として「自由度」が一番に挙げられた。学生は社会人と比べて時間的に自由度が高く、さらに研究テーマも自由に設定できることが多い。また他の「強み」として、アカデミックにおいては最先端の研究が行われているとした「最先端」や、特定の分野に特化した「専門性」などが挙げられた。一方、外部環境でのプラス要素、すなわち「機会」としてはまず「景気が良い」ことが挙げられた。景気が良いと研究に費やす時間と資金が得られることにつながるからである。さらにもう1つのグループからは「機会」として「東京大学というネームバリュー」が挙げられた。研究成果を社会に応用していくためには研究内容を社会に理解してもらい、互いに信頼関係を築くことが重要である。そのような場合において東京大学という名前は相手に信頼してもらうための手助けになるかもしれない。

次に、CROSS SWOTによって上記の「強み」と「機会」を組み合わせた戦略を考えた。「強み」としての自由度、最先端、専門性、また「機会」として景気の良さや東大というネームバリューを組み合わせてできた戦略の一つが、様々な分野の知識を持った学生同士が集まった学生団体を形成することである。複雑化する社会問題の解決に取り組んでいくためには分野を超えた幅広い知識が必要とされるため、人文社会科学や自然科学を含めた様々な専門を持つ学生が集まった学生団体を形成し協力し合うことで分野間の壁を越えた分野融合的な活動を行うことが可能になると考えられる。さらに東京大学というネームバリューを用いることによって社会における信頼性や、社会に与えるインパクトも大きくなると考えられる。

一方で、活動を社会に広げていくためには学生間のつながりだけでなく、大学外をも含む様々な分野とのつながりも必要である。SWOT分析に於いて、学生の研究者の「弱み」として、活動範囲が限定されていることが挙げられていた。例えば研究室で毎日実験を行っている学生の活動範囲は、実験室や大学内だけとなってしまう。しかし研究成果を社会に実装していくためには大学機関内だけでなく、社会とのつながり、とりわけ企業などと連携して基礎研究から社会実装に向けた研究開発を進めるよう努めていかなければならない。そこで解決策として、学生と社会人とのつながりを作ることを提案した。学生は自由な時間があり、企業ではあまり取り組めないような研究も行うことができる一方、それらを社会に活かす機会がなかなか得られない。それに対して社会人は自由度が限られているものの、学問に限らず、様々な実用分野の人たちとのつながりがある。従って、学生と社会人が協力し合うことでお互いの強さを活かすことができると期待される。講師の曽山氏は、「学生の積極的な活動を応援したいと考えている社会人は沢山いる。」と仰っていた。そのような社会人の方に協力を依頼し、学生と社会人のよさを組み合わせることによってさらに新しいことに挑戦することが可能になるだろう。

今回のワークショップでは「SWOT分析」と「CROSS SWOT」の手法について学んだが、加えて研究成果の社会実装のためには、文系や理系を含めた学生間のつながりや、さらには学生と社会人とのつながりが重要であることがわかった。今後はそのようなつながりを作ることを意識して活動していくことが必要であると思った。

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報告日:2018年10月3日