文部科学省若手職員との意見交換会 藤井 祥

文部科学省若手職員との意見交換会 藤井 祥

日時:
2015年6月26日(金)10:30−12:00
場所:
東京大学駒場Iキャンパス 101号館会議室
講演者:
森祐介(文部科学省専門職・ハーバード大学ケネディー行政大学院行政学修士課程・マサチューセッツ工科大学Program of Emerging Technology研究員・新潟大学大学院医歯学総合研究科客員研究員)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)

本報告では、文部科学省・大臣官房国際課企画調査係長(当時。現在は米国留学中)の森祐介氏とIHS生との意見交換会について報告する。森氏は東京農工大学農学部を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科でRNAを用いた合成生物学の研究をされ、博士号を取得された。本学博士課程を修了されたのちに、文部科学省で活躍される氏のキャリアは、専門性と教養を身につけて社会で活躍することを目指すIHS生にとって、非常に参考となるだろう。

森氏は大学院在学中から、科学技術や研究と社会との関わり方について興味を持たれ、合成生物学の社会的影響や医学研究の倫理性についても研究されていた。また、生命科学を題材とした絵画や絵本といった芸術を用いて、科学に興味のない一般の人々に科学を認知してもらうという試みも行われていた。こうしたご経験から、多様な科学研究と社会を調和・共存させ、社会にインパクトを与えたいと考えられ、それが可能な場として文部科学省に入省された。氏によれば、文科省の魅力は社会的影響力の強い仕事ができることと、様々な立場の人と率直な意見交換ができることにあるそうだ。そのためには、自分の強い部分を持ちつつ、幅広い経験をすることが重要となる。たとえば、大学教育政策には研究の観点が不可欠であり、逆に研究振興政策には高等教育の観点が欠かせないため、文科省内で部局を超えた人事異動が頻繁に行われている。博士号をもつ職員も例外ではなく、森氏も4年間でライフサイエンス課と国際課で様々な業務をこなされてきた。

以上のご経歴と省の紹介に続いて、社会における専門知識の必要性や、科学・教育政策のあり方に関して、学生やIHS研究員との議論がなされた。

前者に関しては、文科省の総合職採用において、高学歴化が進んでいることが紹介された。とくに技術系の職員では博士課程修了者を2〜3割程度、その他は修士卒がほとんどを占めており、博士号所有者が重宝される場面も多いという。ただ、専門知識を必ずしもそのまま活用できるとは限らず、専門的な知見や研究の経験が、政策の立案や交渉、調査の際に、ある種の「教養」として役立つようだ。また、専門家採用の問題点も浮かび上がった。たとえば、文科省が特定の専門知識を持つ人物を採用することで、研究者とのコミュニケーションをとりやすくできる一方で、個々の専門領域が細分化されているために、採用した専門家の親しんでいる分野のみが優遇される危険も生じさせてしまう。これを防ぐためにも、省内の人事異動が必要とされる。もちろん、異動によって知識の蓄積が難しくなるため、大学や研究機関、民間企業からの出向職員によって補われているとのことである。さらに、現在の制度では昇進が入省時からの年数に大きく依存し、博士課程修了者が能力に見合った役職に就く前に退職年齢を迎える可能性が高いことも挙げられた。

続く議論では、文科省の大学政策に疑問を感じることがあるという意見が学生側から出された。森氏も学生時代には同じように思われることもあったそうだが、入省後、絶対にやめたほうがいい政策が行われていると感じたことはないとおっしゃった。文科省内にいると、政策を推進する理由と、それに対する反対者の意見をどちらも聞くことになり、改善の余地はあっても総合的には実行する方がいい、という判断ができるのだそうだ。このご意見には、大学の内情を知りつつ政策立案を行う立場にある森氏ならではの説得力が感じられた。裏を返せば、大学側が政策に対して一面的な見方しかできていないともいえよう。これまでも行政と大学との対話の重視性は指摘されているが 1、大学側の政策に対する理解不足は解消されていないのだろう。したがって、大学関係者が政策立案者の率直な意見を聞き、また双方が率直に意見交換できる場を多く設けていくことが求められる。そして、この場は大学を運営する一部の教職員だけでなく、若手研究者や学生、職員などにも広く開かれていることが望ましい。多くの大学関係者が政策の意図を知ることは、国の方針に賛同・追従したり、単純に反対したりするためではなく、国と大学や研究機関が対等に話し合い、高等教育や学術研究を発展させていくための民主的な過程として必要なのではないだろうか。

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2009年11月には、旧七帝大に早稲田・慶應を加えた9大学の学長が、「大学の研究力と学術の未来を憂う」という声明の中で、政策決定過程における大学界との「対話」の確保を主張した。この声明は、民主党政権下での事業仕分けに対する批判として、9学長の連名で出されたものである。
報告日:2015年7月31日