「IHSワークショップ2018」 報告 蒔野 真彩

「IHSワークショップ2018」 報告 蒔野 真彩

日時
2018年10月8日(月・祝)
場所
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクトH「生命のポイエーシスと多文化共生のプラクシス」

はじめに.

本稿では、2018年10月8日(月)に、駒場キャンパスⅠにて実施された「IHSワークショップ2018」について報告する。このワークショップは、Sセメスターの授業「多文化共生・統合人間学実験実習Ⅱ」の関連企画として、本授業の履修者を中心に企画された。以下、1.ワークショップを開催するに至った経緯や企画の目的と、2.ワークショップの内容報告、の2つについて記述する。

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1.ワークショップの開催経緯と目的

「はじめに」で述べたように、本ワークショップは、IHSプログラムの授業の一環として実施された。「学生主体でシンポジウムを開く」という課題のもと、履修者を中心とし、6月ごろからどのようなイベントにするべきかが話し合われた。参加者は、本年度初のメジャー生として入学したメジャー1期生(プログラムとしては5期生)や、サブメジャー4期生、また他専攻の学生などが集まった。

当初は、前年度に実施された「IHS学生シンポジウム:知の協働はいかにして可能か」(IHSの学生が主催する分野横断型のシンポジウム)を引き継ぐ形で、個人の研究発表を中心とした企画で話し合いが進められていたが、今回の参加学生は、修士の1年生が多く、まとまった発表をできる段階に研究が進められていないことや、研究発表よりもIHSの現状を話し合うことのほうが重要なのではないかという意見が上がり、シンポジウムではなく、ワークショップという形の企画に変更された。

そして、ワークショップの目的は、「IHSプログラムと所属する学生が抱える課題を明らかにしたうえで、その課題を実際に解決するべくこれからのIHSと学生のあり方を模索すること」に設定された。このような目的を設定した理由は、①IHSは過去4年間、様々な活動を行ってきたが、プログラム全体の統一感がないために、成果や課題を把握することができていないこと、②副専攻プログラムから、新たに本専攻が開講された今年は、プログラムにとって節目の年であり、これまでの活動を見直すのに適切な時期であること、の2点である。

以上の目的のもと、ワークショップに向けて、プログラムの現状を把握するために、事前に学生アンケートを実施した。アンケートは、IHSに所属する(もしくは、していた)学生を対象に、主に自由回答式で実施され、その内容は、IHSの授業や研修、全体の制度などに関する良い点や改善点を問うものであった。ここで述べておきたいが、「プログラムの現状」というのは、職員や授業内容など、大学側が用意するもののみを指すのではなく、学生側の姿勢や活動を含めたプログラムに関わるすべての事象を指している。

ここで、その結果をすべて報告することはできないが、プログラムの現状に対して、肯定的な意見や否定的な意見も含め、様々な意見が寄せられた。例えば、IHSは様々な分野の学生や教師が集まっているため、幅広い知見に触れることで学際的な視点が得られる一方、扱う分野が広すぎるためIHSが指定する必修科目に統一性がないこと。また、海外研修などは、個人ではできない貴重な経験ができる一方、事前・事後勉強会が少ないため、ただの観光になりがちであること、などがあげられた。

これらのアンケートをまとめた結果、「IHSが基礎とする『統合人間学』の定義が曖昧であること」が根本的な問題であることがわかった。プログラムの土台となるディシプリンが曖昧であるために、それを軸とした授業や研修の目的が見えづらくなり、また、そこに集まる学生や教師の関心が共有されにくい状況が生まれているのである。

そして、このようなアンケート結果をもとに、ワークショップに向け具体的な企画案が話し合われた。

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2.ワークショップの内容報告

 当日行われたプログラム内容は、以下の通りである。

【プログラム】
13:00 - 13:10 イントロダクション
第1部
13:10 - 13:50 “IHSの学生は今、何を考えているのか”(学生アンケートの結果報告)
13:50 - 14:50 “これまでのIHSの活動について”(学生発表)
第2部
15:00 - 16:45 “「協働」と「IHSの今後5年」のロードマップ作り”(ワークショップ)
16:45 - 16:55 閉会のあいさつ
17:00 - 18:45 閉懇親会

第1部では、①IHSの学生を対象にしたアンケート調査報告と、②これまでの学生自主企画に関する講演をもとに、「IHSのこれまでの活動の振り返り」が主題とされた。そして、第二部では、①IHSの抱える課題について全体でのディスカッションと議論の集約と、②IHSの今後の達成目標の設定とそれを実現するためのロードマップ作成を通して、「IHSの抱える課題を明らかにし、これからのIHSについて模索すること」が主題とされた。

前章のアンケート結果であげられた「統合人間学の定義が曖昧である」という点については、問いが大きすぎるため、ワークショップ内では明確な答えを得ることはできなかった。しかし、学際的に活動に取り組むうえでは、専門外の人にも自分の専門の話を伝えられるように、これまで以上に自らの専門性を高める必要があることが指摘された。

また、アンケート結果で提示した論点以外にも、日本語ユーザーと秋学期入学者との言語による分断や、学生間でのネットワークの弱さなどが指摘された。後者に関しては、過去に「IHSリンク」という交流の場が存在していたが、今はほぼなくなってしまったことが明らかとなった。また、今後そのような交流ネットワークの場を復活させる必要があるが、大学の制度としてそれを実施しようとすると、手続きなどでかなりの時間がかかってしまうため、SNSなどを駆使して学生主体で非公式のネットワークを作成するほうがよいとの意見もあげられた。

そして、第2部の「ロードマップ作成」では、第1部の議論を受けて、「IHSの必修科目である概論の授業を改善するにはどうすればよいか」というテーマが選ばれた。概論の問題点として指摘されたのは、「多文化共生というテーマが広すぎるために、概論授業全体の軸がないこと」、「オムニバス形式で実施されるため、教員の関心によって内容の差が大きいこと」、「扱う分野が人文系に偏りがみられること」、「授業内のディスカッションが少なく、また授業後の学生レポートが共有されないために、参加者同士で意見交換がされにくいこと」などである。

このような課題を受け、「概論を改善するにはどうすればよいか」を各自が付箋に書き、それをカテゴリーごとに段階付けをし、1枚の大きな模造紙にまとめた。その結果が、以下の写真である。

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付箋を分類し段階づけをした結果、①コンセンサスのための集団作り/ネットワーク、②理念、③Active Learningの3段階になった。①は、縦横のネットワークの弱さが指摘されたことから、学生自治会を作ることなどが提案された。その上で、②IHSの理念や、③具体的な授業内容の改善などを話し合っていくことが必要であるとの議論が行われた。

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おわりに.

今回、プログラム生として内部からプログラムの在り方を問い直すことは、とても難しいことではあったが、このような取り組みの重要性を改めて感じた。プログラムとして前例がない以上、固有の正解を見つけることはできないが、今回のように、その都度足を止めて、振り返ることが大切であるといえる。と同時に、実際に足を動かしてみて、足跡から新たなフレームワークを見出す、という冒険的な姿勢も重要であるだろう。プログラムを存続されること自体が自己目的化してはいけないが、今ある環境をさらに生かすためにはどうすればよいのか、これからも考えていきたい。

報告日:2018年10月27日