「演習VI講義第11回・実地研修」報告 季高 駿士

「演習VI講義第11回・実地研修」報告 季高 駿士

日時
2017年7月25日(火)11:00 - 15:30
場所
いであ株式会社(静岡県・焼津市)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

今回、私はいであ株式会社の環境創造研究所に実地研修としてお話を伺ってきた。いであ株式会社は環境分野のコンサルタント業務を行う株式会社であり、今回私が伺った環境創造研究所は静岡県の焼津に立地する。

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いであ株式会社は環境コンサルタントとして主に環境調査、リスク評価、生物多様性保全を行っている。その中で今回私たちが伺った内容は「遺伝子解析技術を用いた環境調査事例」である。遺伝子解析をすることによって、その生物をより正確に特定することが出来るのである。例えば発電所の環境モニタリング調査をする際にいくつかの魚類の卵を採取するが、まずはその卵の形状から予測し、さらに孵化した稚魚からどの魚の仲間なのかを見極める必要があった。ところが、遺伝子解析を行うことによって、それまでは大まかにしか判断できなかったものが、正確に特定することが可能になったのである。また、今までは小動物を調査する際に直接対象の生物を捉える必要があったため、捕獲する際に生物を傷つけてしまう恐れがあった。一方で遺伝子解析の場合、毛や糞からその生物を特定することが可能なため、調査する生物を傷つける可能性がなくなったのである。

私が驚いたのは、環境試料中に残存するDNAから生物相や存在するかどうかを調べることができる「環境DNA分析」という環境モニタリング調査方法である。この方法では川の水や土、大気などからその環境に存在する生物を特定することが可能なため、生物を捉える必要がない上にサンプルの回収が非常に容易である。その具体例として、バケツ一杯の水からその環境に存在する魚の種類を特定する新技術「MyFish」が挙げられる。この技術を用いて沖縄美ら海水族館の水槽にいる魚の種類を特定する調査が行われたことがあるが、そこでは非常に高い確率で特定することに成功している。バケツ一杯の水には様々な生物由来のDNAが多く存在しているが、遺伝子解析をする際にプライマーを使い分けることによって目的の生物のDNAの調査を行うことが出来る。従来の捕獲調査では調査員の技術が結果に影響したり、一日の作業量に限界があることが問題であった。さらに解析をする際にも種類に分別などに手間がかかってしまう。ところが環境DNA調査だと、作業が標準化されるために作業員の技術の結果への影響は小さく、捕獲が難しい種類の検出も可能である。また一日に多地点の調査が可能である。

お話の後に施設内を見学させていただいたが、川から採集した魚の卵はまず形状から大まかに分類分けをしたりホルマリン漬けして試料を固定したりするのに多くの人員を必要としていた。ところが、遺伝子解析を行う部署ではわずか2人で調査を行っていた。さらに、最近次世代シーケンサーを導入したことにより、より早く正確に解析することが可能になった。私たちのために実際にqPCRを用いた調査をやっていただいたが、わずか30分程度で正確な結果が出てきて驚いた。また、持ち運び可能なPCRを使って蜂蜜の中に含まれる花の成分を調べていただいたが、こちらもすぐに結果を得ることができた。

今まで私は遺伝子解析の発達を学問的分野において捉えがちであったが、今回の研修を通して遺伝子解析が実践的に用いられていることを知ることが出来た。遺伝子解析に限らず、科学技術が発達することによって様々な分野で役立っていると思われる。今後は遺伝子解析に限らず、様々な科学技術と社会とのつながりについても考えていきたいと思う。

報告日:2017年7月25日