「辺野古視察&北東アジア“境界線”ワークショップ 沖縄、台湾、香港、済州」報告 崎濱 紗奈

「辺野古視察&北東アジア“境界線”ワークショップ 沖縄、台湾、香港、済州」報告 崎濱 紗奈

日時
2016年2月27日(火)〜2月28日(水)
場所
沖縄県名護市辺野古、沖縄県那覇市
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」

去る2015年2月27日から2日間の日程で、「辺野古視察&北東アジア“境界線”ワークショップ 沖縄、台湾、香港、済州」を実施・開催した。本稿では、1.企画した動機、2.活動の内容、3.感想について述べたい。

1.企画した動機

本企画は、報告者(崎濱)を含むプログラム生5名の発案により開始されたプロジェクトである。2014年度に実施した学生自主企画「沖縄企画」(映画『標的の村』自主上映会および沖縄スタディツアー)を継続・発展させたいという意志のもと、院生ワークショップの開催を2015年度の目標に据えた。院生ワークショップという形式に決めたのは、①沖縄に関わる複雑な問題を検討するための自由闊達な意見交換の場を、若手研究者を中心に作りたい、②日本国内のみならず、周辺地域の同世代の研究者との交流を図りたい、という理由からであった。

ワークショップの主題は、グローバル資本主義時代における「境界」「分断」という問題を考察すること、として設定した。なぜなら、「沖縄問題」として語られる難題は決して、沖縄固有の原因に由来するものではなく、むしろグローバリゼーションの進展という世界的な動向の渦中において生じていると考えられるからだ。グローバリゼーションの進展に伴い、人の移動・物流・金融が益々ボーダーレス化する反面、安全保障という文脈においては、昨今、国民国家体制がむしろ強化されるという状況が看取できる。今回の院生ワークショップでは、北東アジアと呼ばれる地域で生起した幾つかの政治・社会運動もまた、同様の状況下におけるものと考え、次の三つの事例──台湾ひまわり学生運動、香港雨傘革命、済州島カンジョン海軍基地建設反対運動──も同時検討することを目指した。会議では、これらの運動をいわゆる社会科学的観点から評価・分析するというよりはむしろ、四つの事例を同時考察することを通して、北東アジアという地政学的条件に規定されつつも、それを乗り越えようとする政治思想/運動の可能性を模索することを目的とした。

2.活動の内容

今回のワークショップの参加者は、次の通りであった。海外からは陳光興先生(台湾国立交通大学)、金杭先生(韓国延世大学)、張政遠先生(香港中文大学)の3名、会場提供はじめ企画段階から多大なご協力を頂いた若林千代先生(沖縄大学)、ディスカッサントとしてご協力頂いた石田正人先生(ハワイ大学)、発表者として御登壇頂いた小松寛先生(早稲田大学)・佐喜真彩さん(一橋大学大学院博士課程2年)・田尻歩さん(一橋大学大学院博士課程2年)、さらに小波津義嵩さん(名桜大学3年生)をはじめとする学生団体・SEALDs琉球の皆さんにお集り頂いた。東京大学・IHSからは村松真理子先生・石川学先生・研究員の金美恵さん・プログラム生6名(菊池魁人・崎濱紗奈・信岡悠・半田ゆり・山田理絵・吉田直子)・李依真さん(超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程3年)が参加した。さらに、当日の通訳として、『現代思想』(青土社発行の学術総合雑誌)元編集長で東アジア現代思想計画理事の池上善彦さんにもご参加頂いた。

ワークショップは合計三つのセッションから構成された。第1セッションでは、四つの社会運動の概要発表を行い、第2セッションでは第1セッションの発表を踏まえた上で文学・思想・哲学・政治学等の観点からより抽象的なテーマを検討した。第3セッションでは、海外からいらっしゃった3名の先生方にご発表をお願いした。続く全体討論では、三つのセッションを総括した上で、全体の内容について議論を行った。各報告の詳細についてここで言及することはできないが、以下、当日の議論内容を概括したい。

第1セッションでは各運動の詳細な内容を紹介するにとどまらず、その運動が生起した背景(近現代史や現在の政治状況など)まで含めて参加者全体で共有することを目指した。写真が多く使用されたことで、実際の運動の様子を想像する良いきっかけとなった。特に、SEALDs琉球のメンバーによる発表は、前日の辺野古フィールドワークでの経験(SEALDsメンバーの案内のもと、キャンプ・シュワブに隣接する浜辺の散策・ゲート前のテント見学を行った)を踏まえつつ、大変興味深く拝聴した。一方、発表時間の制約や、企画者から発表者への意図説明不足など複数の原因から、歴史的背景に対する言及が少なくなってしまったことについては、企画者として反省したい。

第2セッションでは、帝国主義・資本主義・安全保障・倫理と政治の可能性・ジェンダー等に関わる大きな問いが複数提出された。どの問いも、沖縄・香港・台湾・済州という四つの地域を考える際に有効かつ重要な切り口となり得るものだったと思う。ディスカッサントの半田さんは、「身体性」というキーワードによって一見異なる四つの発表に共通するテーマを抽出し、議論の端緒を開いてくれた。第3セッションで先生方が言及されたテーマ(戦後民主主義と植民地主義との一体性、東アジアを規定してきた条件の見直しと今後の展望、辺境東アジアにおける新たな民族主義、等)も、第2セッションで提出された問いと多くを共有していた。

3.感想

報告者にとって、国際的なワークショップの企画・運営は初めての経験であったため、多くの困難に直面し、また多くのことを学んだ。その全てに言及することは叶わないが、ここでは特に、学問および大学の意義について記述したい。

学問は、自らを複雑な現実社会の中にどのように位置づけ、他の営為とどのような関わりを持つべきか。IHSでの活動を開始して以来ずっと念頭にあった問いは、今回のワークショップを企画・運営する中でも常に再考を迫られた。この度の企画の到達点は、各地域に共通する問題やその背景としての複数の要因を、具体的な事例から抽象的な問題系に至るまで参加者全員で共有し、議論の俎上に載せたことであった。今後の課題は、議論のその先に何を「思想」として描くことができるのか、また、実際にどのような行動に昇華させることができるのか、ということである。今回のワークショップを一過性のイベントとして終らせることの無いよう、真剣に取り組んでいきたい。

大学を閉鎖的・権威的な場所として外界から切断することは望ましくない。同時に、大学を他の組織──たとえば官僚組織や利潤追求を目的とした企業──に同一化させることも意義があるとは言えないだろう。大学がそもそも不要であるというラディカルな議論もあり得る。しかし、大学はそれ自体社会の一構成要素であり、なおかつ、社会が抱える問題に対して批判的な洞察力を養うことを可能にする場であると報告者は考える。こうした批判的視点を必要としない、あるいは嫌悪する風潮が強まりつつある昨今、大学はもとより、学問そのものをいかに思考し実践するかという課題は、より差し迫ったものとなりつつある。今回は、「沖縄」にまつわる具体的な問い──「沖縄」という場所が抱える問題に対して、大学は、あるいは学問は、どのように関わりを持ち、現状に変化をもたらすことができるのか──を出発点として、上記のような問題意識に向き合う貴重な機会となった。たとえ今後、挑戦しては失敗するという状況が続いたとしても、その都度反省点を踏まえつつ、したたかに余裕を持って粘り強く取り組んでいきたい。

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報告日:2016年3月24日