株式会社LITALICO訪問 石 田

実験実習III「科学・障がい・アート」関連研修 株式会社LITALICO訪問 石 田

日時:
2015年7月27日(月)17:00-18:00
場所:
株式会社LITALICO 中目黒本社
対応者:
広報部長 三谷郁夫氏
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

本報告は、IHS実験実習「科学・アート・障がい」の一環として見学した株式会社LITALICO 1について概観し、障害者と社会との関わり方について考察するものである。同社は就労と教育の2つの面から障害者を支援しており、いずれも「合理的配慮」という理念に密接に関連している。

就労に関する事業は同社の創業以来の活動であり、下半身不随のシステムエンジニアに専門的業務を委託することが最初の活動であった。現在、同社は主として精神障害者に対し類似の支援を行っている。三谷氏は、こうしたアプローチは障害者の自立を可能にすると述べる。従来の障害者の就労は作業所もしくは清掃などの単純な労働が主であり、収入は著しく低い。これに対し、自らの専門性を生かた高付加価値な職に就くことができれば、経済的に自立することができる。とはいえ、このことは単なる経済的自立のみをもたらすだけではなく、障害者本人の自尊心にも関わるのだという。社会の役に立つことを願いボランティアに志願する障害者が、自分の行動が常にヘルパーを伴わなければならないという事実に直面すると、しばしば自信喪失につながる。しかし、自分にとって可能な手段を用いて専門職に就くことで、こうした自信喪失を免れることができる。

教育に関する事業は大きく2つに分けられ、発達/学習障害の児童生徒を対象としたフリースクールと、そうでない児童生徒を含めた公開型の教室とがある。共通しているのは、通常の学校や学習塾には馴染めない子供に、各自の関心や特性に応じて能力を伸ばす機会を提供している点である。多動やディスレクシアをもつ子供にとって、いわゆる「ヒドゥン・カリキュラム」を伴う通常の教育を受けることは難しく、また特定の領域に深い関心を持っている場合には、対応できる大人がいなければ、その能力を伸ばすことは難しい。三谷氏は、子供の得意不得意を見極め、形式に拘らずに得意な領域を伸ばし成功体験をさせることが、障害をもつ子供の自信につながると主張する。

こうした同社の活動は「合理的配慮」と密接に関連している。これは近年の障害者差別対策における中心的な理念であり、これはおおむね、要求される課題(業務、学業等)の本質的でない部分について、過大なコストを課さない範囲でアクセシブルなものに調整せよという原則である。同社の活動は、就労を促し学習を励ますこと、およびそれを可能とする環境づくりであり、従来型の「アファーマティブ・アクション」と呼ばれるアプローチとは一線を画している。その反面、「合理的配慮」は必要な調整の内容をあらかじめ定めることができないことが指摘されており、三谷氏もまた、現在の取り組みが前例を積み上げている途上であることを述べている。

同様の取り組みは、アメリカを発祥とするDO-ITにも見られる。DO-ITは、障害を持つ児童生徒に対し、主にICTを用いて、自らの特性に合った学習・生活手段を考え身に付けるとともに、必要な調整の周囲の人々へのプレゼンテーション力を養うことを狙った取り組みである。では、LITALICOを特徴付けるものは何だろうか。第一に、DO-ITは大学が主体となって行うプログラムであり基本的に営利を目的としないのに対し、LITALICOは株式会社であり、営利によって活動を行っている。三谷氏によれば、このことがより柔軟で効率的な活動を可能にしている。その反面、DO-IT採択生のプログラム受講料は無料であるが、LITALICOは授業料を必要とし、また教員あたりの児童生徒数が少ないことから授業料は必ずしも安いとはいえない。第二に、自己決定という理念、すなわち障害者自身が自らの得意不得意を理解し、調整の必要性を自ら説明し企業や学校に求めるというスキルが(特に日本の)DO-ITのカリキュラムの中心の一つであるが、LITALICOではむしろ積極的に障害者と企業・学校の間に入り交渉する。三谷氏は、自己アピールが得意な障害者だけが「合理的配慮」の享受主体となるべきではないとし、そうした「強い」障害者の影に隠れてしまう存在に光を当てることが必要だと主張する。そして第三に、DO-ITは通常のカリキュラムの内部での調整、およびそれとは独立のプログラムとして機能するのに対し、LITALICOの教育プログラムは、自治体の認可のもとで義務教育卒業の資格を与えることができ、通常のカリキュラムの代替としてのフリースクールを志向している。「合理的配慮」が何を教育の本質とみなすかという非常に難しい問題について、時にDO-ITとLITALICOは立場を異にしうるのだ。

このようにして、LITALICOとDO-ITを比較するだけでも、「合理的配慮」の実現にはいくつかの課題が残ることが明らかとなった。すなわち、「合理的配慮」の実現に向けての取り組みへのアクセスが、金銭的・知的階層により限定されてしまうのではないかという問題である。しかし、このことは両機関の活動の意義に疑問を投げかけるものではない。「合理的配慮」自体が研究途上の理念であることを踏まえると、実践を通して「合理的配慮」が抱える課題を発見し解消することを繰り返していくことが求められる。そして、「合理的配慮」が当初から(障害を持つ被雇用者の利益だけでなく)雇用者の利益にも相当の価値をおいてきたことを踏まえると、福祉と利益は両立・共存しうるものとして考えられるべきだろう。したがって、私的な営利団体が「合理的配慮」システムの斡旋と推進を担うことの意義は、今後の障害者福祉のあり方を考える上で決して軽んじられるべきではないだろう。

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2005年仙台に創業し、事業として障がい者対象就労支援、発達障害児童対象個別学習指導、プログラミング、ロボット製作ものづくり教室を展開している。

報告日:2015年9月30日