オーストラリア国立大学Japanese Studies Graduate Workshop 参加報告 崎濱 紗奈

オーストラリア国立大学Japanese Studies Graduate Workshop 参加報告 崎濱 紗奈

日時:
2015年6月25日(木)〜6月26日(金)
場所:
オーストラリア国立大学(キャンベラ)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト5「多文化共生と想像力」

報告者(崎濱)はこの度、2015年6月25日・26日の二日間にわたってオーストラリア国立大学で開催された"Japanese Studies Graduate Workshop"に参加した。本稿では、ワークショップの様子および感想について報告する。

"Japanese Studies Graduate Workshop"は、オーストラリア国立大学Japan Instituteが主宰するワークショップである。Japan Institute所長のサイモン・アヴェネル先生によれば、日本研究に携わる若手研究者が集い交流を深める場として、数年に渡り継続開催されているとのことだ。ワークショップの主旨は、必ずしも研究分野を同じくするわけではない研究者同士が、「日本」を媒介項として分野横断的な交流を行うというものである。今回は日本・オーストラリア・シンガポールから11名が参加し、英語・日本語の二言語いずれかを用いてプレゼンテーションおよびディスカッションを行った。各自のテーマも種々様々で、テーマ別に計六つのセッション(「日本近代史と思想」、「日本語という言語」、「日本の伝統文化」、「日本の現代文化Ⅰ」、「日本の現代文化Ⅱ」、「グローバリゼーションと日本」)に分かれての発表となった。ただし、セッションが分けられるものの、部屋別に各セッションを開催・進行するのではなく、一つの部屋で、他の参加者も全員がオーディエンスとして参加し、ディスカッションを行うという形式でワークショップが行われた。

報告者は、「日本近代史と思想」というセッションで、"Modern National Learning and Okinawaology: The Relationship Between Orikuchi Shinobu and Ifa Fuyu"というタイトルの発表を行った。折口信夫(1887-1953)と伊波普猷(1876-1947)の思想を分析対象としつつ、近代国学と沖縄学の相互影響関係を明らかにする中で、帝国日本の文化的主体形成の過程を分析することを目指した。折口にせよ、伊波にせよ、帝国主義への抵抗の契機を含みつつも、結局はそれを下支えしてしまうという複雑さを抱えた思想家であり、したがって、両者を日本帝国主義に積極的に参与した思想家として断罪することは困難である。だが、彼らの持つ問題は、戦間期の日本思想を考える際避けて通ることはできない。報告者は、今後執筆予定の博士論文でこの内容に取り組むつもりで、今回の発表を行った。発表後のディスカッションでは、内容に関する個別的な質問のほかに、「政治的な問題をアカデミックに扱う際に、研究者はどのような態度でのぞむべきなのか」、「複雑かつ膨大な問題を扱う際、どのような問いを立てれば有効に研究を展開することができるのか」など、分野を問わず、研究者であれば誰しもが直面するであろう問題について活発な意見交換がなされた。ここで得られたコメント・アドバイスは、今後博士論文を執筆する上で大変示唆的であった。

今回のワークショップでは、参加者がリラックスした状態でディスカッションに参加できるよう様々な工夫がなされていた。特に、日本語と英語の両方を使用可能とすることで、会の雰囲気が全体を通して非常に和やかに保たれたと感じた。複数の言語を用いて意見交換することで、いずれかの言語が特権化されることを防ぐことができる。各参加者が、自らの母語でない言語を用いて発言するシーンが目立ったことも興味深かった(例えば日本語を母語とする者は英語で発言し、英語を母語とする者は日本語で発言する、など)。また、参加者全員が発表者に対しオンライン上でフィードバックを送信するという試みも新鮮だった。このシステムにより、発表者は帰国後も他の参加者からのコメント・アドバイスを仔細に確認することができた。

発表する機会を得られたことはもちろん、国際会議の運営という点からも、今回の経験は大変貴重なものであった。今回のワークショップで感じたような居心地の良さを、将来報告者が国際会議を運営する立場に立った際実現できるよう、努力したいと思う。このような素晴らしい機会をくださった、オーストラリア国立大学Japan Instituteの先生方、IHS Project5の先生方およびスタッフの皆様に、心より感謝申し上げたい。

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報告日:2015年7月22日