多文化共生・統合人間学演習IX(第2回)報告 于 寧

多文化共生・統合人間学演習IX(第2回)報告 于 寧

日時:
2014年11月14日(金)16:30−18:00
場所:
東京大学駒場キャンパス8号館205教室
講演者:
村松伸(本学生産技術研究所/総合地球環境学研究所 教授)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」

8月2日から9日まで、京都と奈良にてIHSプロジェクト2が主催した風水研修が行われた。本研修は「景観に関する統合的在来知の理解と近代学問知との融合」をテーマにし、風水を通じて人間社会がどのように自然に介入し自然と共生してきたかを検証した。中国から招待された風水専門の先生より風水に関する基本知識を勉強し、実演も行われ、充実した研修となった。その研修成果を研修に参加できなかったプログラム生と共有するため、11月14日に報告会が催された。

まず村松先生は今回の研修の背景と趣旨を説明した。2011年3月11日の東日本大震災を背景にして、人間の自然への介入の歴史、人間と自然の共生について考え直すことが重要となる。どのように人間は自然とともに生き、どのように自然に介入してきたかを、風水を切り口に、人間の自然に対する介入行為のあり方を検証し、新たな可能性を探った。そして、中国風水の基本知識と京都における風水の状況を説明した後に、一週間の研修日程と研修内容を報告し、研修を通じて得られた成果を紹介した。その後、風水の中国、韓国そして日本における伝承の現状について議論が行われた。中国において、風水は民間レベルで市民社会に根強く定着しているが、国の方針で風水は迷信と定められたため、大学など公な場で風水を研究し、促進することは許されていない。韓国は中国より風水に対する態度が寛容で、風水に関する研究は大学でも行われている。日本では、長い間風水の伝承が途切れていたが、近年、風水を研究しようとする動きが出てきた。

次に山田理絵さんは社会学的なアプローチを用い、風水思想と身体感覚を中心に、今回の風水研修で学んだことと感じたことを分析して、その考えについて報告を行った。山田さんは最初に西洋と日本における風水研究の歴史をまとめ、蔵風得水(ぞうふうとくすい)、龍脈と磐座(いわくら)を取り上げ、京都の景観から読み取る風水を紹介した。その後、人間、自然、介入行為の三者の関係をめぐって、人間の五感による感覚知、場所が持つ力、思想の影響などをどう考えるべきかについて問いかけ、答えようと試みた。その他、今回の研修を通じて、感じ取ったフィールドワークの限界や新しい事例に接するたびに気付かされる自らの理論や方法論の課題について、感想を述べた。

報告者(于寧)はマスメディアにおける風水表象をめぐって、今回の風水研修の経験と関連させながら、中国のメディアにおける風水のイメージ分析を行い、その所見について報告を行った。報告者はまず西洋と日本のマスメディアにおける風水表象を簡単に紹介し、海外での風水ブームと風水のグローバル化の現状を説明した。それに対して、中国の主流メディア、特に官報は風水を迷信と定め、風水を信じる官僚を猛烈に批判する記事が多数掲載されている。報告者自身も長い間この論調に染められ、東大の教授が風水研究を行うことに不審を抱きながら、今回の研修に参加したのである。しかし、今回の研修を通じて、風水に対する再認識ができた。今日の風水ブームには、「学」という研究ブームと「術」という占いブームが共存していると考えられることが分かった。「学」と「術」を完全に分けることはできなく、綜合的に扱う必要があるが、報告者自身の風水に対する不審は主に風水の使い方、いわゆる「術」にあることが判明した。今回の研修で、風水の基本を勉強したほか、実演も経験し、風水が歴史検証、古代建築研究に持つ価値を認識できた。「術」を批判するには、「学」を勉強する必要があることを認識し、一部の使い方に対する不審で風水を迷信と定めることは乱暴であることが分かった。また、現在、中国では再び伝統的な知恵を復興しようとする中、なぜ風水に対する再評価ができないのかと問いかけた。

最後に、通訳として今回の研修に参加された村松研の趙斉さんは今まで二回行われた風水研修について紹介し、二回の経験から、風水を中国古来の哲学の根本であり、中国(文化圏)の景観を理解するに不可欠なものとして理解した。第一回の研修で学んだ中国風水における北地域と南地域の流派の違いを説明し、第二回の研修で学んだ神社という日本特有の建築物の配置や向きが磐座、神体山などとどのような関係をもつのかについて説明した。更に、この二回の研修で学んだ知識を用い、出雲大社を風水的に分析することを試み、今までの山を中心とする陸地風水に対して、水を中心とする半島式風水という新しい概念を作り出した。

今回の風水研修は参加者にとって、それぞれ自分なりに成果をおさめた研修であり、限られた報告会の時間内に、その成果を研修に参加できなかったプログラム生と共有できたと思う。また、参加者同士でも、勉強になったことがそれぞれ異なるので、このような報告会を通じて、異なる視点を共有し、風水に対する理解をより深めることができた。今回の風水研修を通じて、風水に対する再評価ができただけではなく、風水の「学」に興味を持つようになった。特に、今回の報告会でこれから風水にどのようなかたちで関わっていくことができるかが分かった。今後、風水の原理を勉強しながら、中国のメディアにおける風水のイメージ分析を行うことを通じて、中国本土における風水に対する再評価の可能性を探ろうと考えている。

多文化共生・統合人間学演習IX(第2回)報告 于寧

報告日:2014年11月22日