演習VI〜国立精神・神経医療研究センター実地研修 報告 ジョゼフィーヌ・ガリポン、服部 千夏

1日目

日時
2014年11月10日(月)14:00−16:00
場所
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の脳病態統合イメージングセンター(IBIC)
講演者
松田博史センター長 M.D., Ph.D
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

演習VI〜国立精神・神経医療研究センター実地研修 報告 ジョゼフィーヌ・ガリポン、服部 千夏

 国立精神・神経医療センター(NCNP)は、研究者、医師、および患者が連携し、神経疾患および精神疾患のための診断ツールおよび治療法を開発することを一つの使命とした臨床・研究施設である。今回講義を行ってくださった松田先生は、様々な方法で脳イメージングを行って日本の臨床画像研究を牽引している脳病態統合イメージングセンター(IBIC)のセンター長である。

 松田先生の講義で、私たちは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの認知機能障害の最新の画像診断技術について学ぶことができ、また画像診断が直面している技術的(診断の正確性など)、倫理的(告知の問題など)、および経済的(保険適用、医療費の問題など)課題についても考える機会を得ることができた。

 IBICでは、何千人もの患者の脳を比較することによって、健常集団とは有意に異なる脳部位を強調して脳病態を診断することができる画像統計解析モデルを考案し、これにより適時診断の可能性が高まっている。しかし、脳画像で異常が見つかったとしても、必ずしもそれが実際の認知機能障害に反映していない場合もあるらしい。そこで、私たちは、画像診断の正確性、経済的コスト、診断による心理的影響、およびインフォームド・コンセントなどの問題について松田先生と活発な議論を行った。

 講義の後に、私たちは、IBIC施設の見学を行い、PETとCTの両機能を備えた最新機器などを実際に間近で見ることができた。

演習VI〜国立精神・神経医療研究センター実地研修 報告 ジョゼフィーヌ・ガリポン、服部 千夏
演習VI〜国立精神・神経医療研究センター実地研修 報告 ジョゼフィーヌ・ガリポン、服部 千夏

2日目

日時
2014年11月17日(月)17:00−19:00
場所
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の神経研究所 疾病研究第4部
講演者
和田圭司部長 M.D., Ph.D.
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

 神経研究所は、精神障害、神経障害、筋障害、発達障害などの病態や病因の解明、およびそれらの治療法の開発を目指して設立された研究所である。今回講義を行ってくださった和田先生の研究グループでは、神経疾患の根底にある分子メカニズムの解明を目指している。

 和田先生の講義では、分子経路などの難解な話はあまり触れられず、哲学、社会学、心理学、精神医学、分子生物学、数学といった多面的なアプローチによって脳を研究することができること、またそうすべきであることが強調された。中でも、和田先生は、脳疾患を考える場合には脳-臓器間ネットワークで捉えるべきであること、そして脳と環境を考えるべきであることを指摘した。

 また、現在の医学では病気を発症するかどうかを確実には予測できないことを考慮した上で、まだ発症していないけれども発症のリスクがある人に対しての治療的介入が可能であるか?その場合の予防的治療のための臨床試験の遂行に関する倫理的問題など重要な問題を提起した。また興味深い話として、脳疾患の場合、プラセボの効果が他の疾患よりも強いという内容もあった。

 今回の参加者は、IHS生、哲学、社会学、生命科学、そして神経研究所で研究を行っている学生や研究員といった多様なバックグラウンドの人で構成されていた(写真:和田研究室のメンバー)。和田先生は多様なトピックについて様々なアプローチで説明してくださり、脳研究という分野について広い視点から見直す機会を得ることができた。

 最後に、臨床の現場でご活躍されている医師や研究者の方々と交流する機会を持てたことに感謝したい。

演習VI〜国立精神・神経医療研究センター実地研修 報告 ジョゼフィーヌ・ガリポン、服部 千夏

報告日:2014年12月5日