「第六回EACYS(6th East Asian Conference for Young Sociologists)・札幌2020」報告 蒔野 真彩

「第六回EACYS(6th East Asian Conference for Young Sociologists)・札幌2020」報告 蒔野 真彩

日時:
2020年2月12日
場所:
北海道大学
主催:
東京大学大学院博士課程リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクトS

1. 本イベントの概要

本学会は、東アジアの社会科学分野の若手研究者の交流を目的として開催されたものである。これまで場所を変えながら5回開催されており、今回は札幌市内にある北海道大学で6回目の開催となった。今回参加した大学は、Department of Sociology, National University(台湾)、Department of Sociology, Yonsei University(韓国)、Graduate School of Arts & Letters, Tohoku University(日本)、Institute of Sociology. Academia Sinica(台湾)、Integrated Human Sciences Program for Cultural Diversity, The University of Tokyo(日本)、The Hong Kong Institute of Education, Hong Kong(香港)である。34名の学生が参加し、似たようなテーマのグループに分かれて1人30分の研究発表を行った。各グループのテーマは、「Modern Landscape of City」、「Culture and Community」、「Cultural Tourism」、「Civil Society」、「Subjective Well-Being in Aging Society」、「Gender」、「Rethinking Concepts」、「Education and Mobility」などである。3つの部屋に分かれてサーキット形式で発表が行われ、参加者は自分の関心に合わせて、好きな発表を聞くことができた。また、ランチブレイクやレセプションディナーの他に、夕方には「Tea Break」と称して、実際にその場で立てた日本茶が振る舞われるイベントもあった。参加人数の多さのわりには、参加者同士の交流が活発に行われるようにイベントが設計されていたと感じる。

2. 自分の研究発表について

私は、「Modern Landscape of City」のグループで、2019年12月に提出した修士論文をもとに発表した。これは、東日本大震災後から福島で活動するアートプロジェクトを事例に、「ローカリティの構築」というテーマについて論じたものである。今回は、一部の内容を切り取るという形ではなく、修士課程の研究で得た結論まですべてを発表に詰めこんだ。そのため、どこを削って、どこに時間を割くかがとても難しかった。私はこれまでに2回、国際的な場で研究発表を行っており、その度に「背景」や「文脈」を説明することの重要性を感じてきた。例えば、以前ドイツのゲッティンゲン大学のサマースクールで発表したときは、「震災」というものが社会や人間の暮らしにとってどのような意味を持つのかということを伝えるのが難しかった。日本でしか生活したことがない私は、「震災」という出来事は、単に物が壊れる、物理的に土地が崩壊するというだけではなく、人の価値観や生き方そのものまでをも変えてしまうということを知っている。しかし、地震がない国に生活していたり、そもそも災害とあまり関わりがない地域に生きる人たちにとっては、その前提を共有することができなかった。

このような過去の経験から、今回の発表では、大学内のゼミ発表では軽視してしまう背景説明の部分を大切にし、「東日本大震災」や「原発事故」によって何が起きたのか、ということを丁寧に説明するようにした。また、実際にフィールドワークで得た写真資料なども多く組み込んだ。そのため、福島のことやアートのことあまり知らない人々にも、全体のストーリーを伝えることはできたのではないかと感じている。しかし、肝心の結論の部分をあまり丁寧に説明することができず、質疑応答では、論文全体の結論よりも、各論点を議論することになった。私の研究は、フィールドワークで得た知見からストーリーを組み上げて記述するエスノグラフィ型の研究である。そのため、面白いと感じてもらえる部分が、聞き手によって変わると言える。そのように、個々の興味深い論点から導き出す結論を伝えるためには、各論点の関係性を明確に示す必要があることを実感した。

また、引率の園田茂人教授には、事例調査の部分は評価していただけたが、それを導入する理論的背景や枠組みに他の可能性もあるのではないかとアドバイスをいただいた。具体的には、今回の私の発表では、場所論やコミュニティ論といった観点から事例を切り取ったが、社会運動論で説明することもできるのではないかという指摘である。この理論的枠組みについては、修士論文を提出したあとも自分の中で課題と感じていた部分であった。園田教授は、「事例調査をすると、どうしても事例の記述に集中してしまいがちだが、それをアカデミックな文脈にどのように位置づけるのかが重要である」と仰っていた。これは、研究者の核となる重要な部分であり、今後の博士課程でさらに探求していきたい。

3. 他地域の学生との交流

今回の学会では、他地域の学生の発表を聞くことができたのも大きな学びとなった。同じような問いに対しても、異なる文化的・社会的背景を持っていれば、研究の視点や方法も変化しうる。これまでの国際交流でもそのことを感じてきたが、あらためて今回の学会でもそれを実感した。

例えば、台湾国立大学のある学生は、台湾に進出したスターバックス・コーヒーを対象に、グローカリゼーションというテーマで発表していた。私もグローカリゼーションには関心があるため、彼女の発表はとても興味深かった。彼女の発表が着目するのは、スターバックスに訪れる客や周辺地域ではなく、そこで働く労働者の中に、西洋から持ち込まれた規範がどのように意識されているかである。西欧の大きな資本に対して、アジアがどのように反応するのかという点で、日本の大手チェーン店の現状と重なるところがあったが、労働者にその規範がどれだけ押し付けられているのかという点では、日本とは異なる現状があると感じた。これは、コーヒー店、飲食店業界という範囲だけで考えていては見えてこない違いである。議論の中でも、「Cultural Imperialism(文化帝国主義)」という概念が出てきていたが、台湾とアメリカ合衆国の関係、日本とアメリカ合衆国の関係の違いに関係していると考えられる。1つの地域、もしくはある地域間を対象に事例研究をする際、その対象地域だけに焦点を当てるのではなく、似ているが少し関係性が異なる地域や、正反対に見えて実は近しい地域など、他のアクターも考慮に入れた上で対象を捉えることで、あぶり出される点があると言える。私の研究は、現在は福島県のみをフィールドとしているが、今後は海外のまちづくりの事例と比較していきたいと考えている。その上で、比較する2つの地域だけではなく、より大きな世界地図の中に対象を位置づけて研究していきたいと感じた。

また、学会主催の公式のレセプションディナーのあと、私は台湾の学生たちと食事に行った。食事の席では、研究に関することだけではなく、そもそもどうして大学院に行こうと思ったのか、大学院に入るまでにどのような教育環境で育ってきたのか、それぞれの地域の現状などを話すことができた。学会の公式な場だけでは知ることができない研究の裏側や、研究という同じ道を選んでいる同年代の人々の話を聞くことができ、とても楽しかった。学会誌に掲載された論文を見るだけではなく、実際に学会に参加し、直接話を聞くことの意義は、このような交流にもあるのではないかと感じた。

4. まとめ

今回の学会は、修士課程で行ってきた研究の成果を発表し、自分の立ち位置を再認識できたことが大きな成果であった。さらに、同年代の若手の研究者たちと交流し、彼らの研究に対する姿勢を目の当たりにし、また研究以外での生活の話をすることができた。これは、論文に直接的に反映されることではないが、今後も研究を続けていく上で大きな励みになるものである。今後も、このような機会があれば継続的に関わっていきたい。

最後になりましたが、この度学会を運営してくださったスタッフの皆様、先生方、そして引率の園田教授には大変お世話になりました。貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。

報告日:2020年2月19日