「地球研オープンハウス研修」報告 倉田 慧一
- 日時:
- 2019年7月23日~7月26日
- 場所:
- 京都府京都市、総合地球環境学研究所
- 主催:
- 東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクトH「生命のポイエーシスと多文化共生のプラクシス」
- 協力:
- 総合地球環境学研究所
2019年7月26日に行われた総合地球環境学研究所(地球研)のオープンハウスに、私達5人はIHSとしてイベントを企画する機会を得た。地球研は地球環境に関する研究を行う研究機関で、様々な学問領域、大学に属する研究者が地球研で行われているプロジェクトに参加している。プロジェクトごとに研究室があるのではなく、カーブを描く細長い(全長150m以上あるだろうか)建物を、机や本棚、パラソルで設えて、それぞれの研究のスペースをつくる施設のデザインが印象的だった。事前の打ち合わせに伺った際には学際的な研究所らしい風通しの良い雰囲気だったこの空間が、オープンハウス当日には参加者の活気につつまれるアットホームな場になっていた。地球研の研究や社会活動にとてもよくフィットしている建物だと感じた。
地球研のオープンハウスは、研究所の活動を広く一般に紹介するためのイベントで、夏休みということもあり、参加者の多くは幼稚園から小学生くらいの子供をつれた親子である。研究所の一般公開と言うと広報の担当部署が淡々と実験施設を案内する光景を想像してしまうが、地球研の場合はそうではない。各プロジェクトが工夫を凝らしてブースをつくっており沢山のイベントが用意されている。それぞれの企画は、子供たちが楽しく参加でき、かつ大人の知的好奇心も刺激されるようなクリエイティブな内容だった。このイベントが直接研究成果に結びつくわけではないのに、地球研の皆さんが楽しそうに準備や当日の運営をされていたことが印象的だった。
企画を考えるにあたって、地球環境のプロフェッショナルである研究者の方々が企画するオープンハウスに、表面的な知識しか持たない私達が参加する意味を考えなければならなかった。既に毎年参加するリピーターがいるようなハイクオリティなイベントであり、単に地球環境をテーマに企画を考えていたら既に行われている企画の二番煎じにしかならないかもしれない。私達の企画を説明するために、地球研とIHSの違いを敢えて強調するならば、まず、地球研は自然科学系の研究者が多いということが挙げられる1。学際的な研究所ではあるが、やはり地球環境に関する研究を行う場である以上、自然科学系の研究者が多いのは当然である。一方で、IHSも学際性をうたっているものの人文系の教員、学生の比率が大きい。また、地球環境という具体的な解決されるべき問題を持っていることもIHSとは違う点である。勿論、IHSも多文化共生を掲げている。しかし、私達の研究や活動は、多文化共生を実現する具体的な方法ではなく、多文化共生ができている(若しくは、できていない)状況を観察したり、記述したり、評価したりするものなのではないか。つまり、そもそも解決されるべき問題はどのようなものなのかを考えていると言えるのではないか。また、人文学にはそういったそもそも解決するべき問題は何なのか考える役割があるはずである。
そこで私達は、そもそも目指されるべき良い地球環境とは何なのか、について参加してくれる子供達と一緒に考えられるゲームをつくろうと考え、特に彼らにとって身近なゴミ問題にフォーカスすることにした。地球環境を守るためには、リサイクル等によってゴミを減らさなければならないと言われ、ゴミを減らす方法が議論されている。しかし、何がゴミであるかは時代や国によって変わるし、つくられた当時の機能や性能を維持しているモノも、社会や技術の変化によってゴミになってしまう。したがって、ゴミを減らすという課題解決だけでなく、そもそもゴミとは何か議論する必要があるのではないかと考えた。
ゲームの内容は、複数のゴミのような要素が組み合わさったモンスターに「なぜゴミなのか」を考えて名前をつける、というものである。例えば、図の右上のモンスターは、カセットテープと握手券付きCDが組み合わさっている。カセットテープのテープが飛び出ているから物理的に壊れていると考える子もいるかもしれないし、技術の進歩によってCDに取って代わられたからゴミになった、握手券だけが欲しかったからCDもゴミだと考える子もいるかもしれない。
保護者向けに配布した資料の一部
ゲームのルールを簡単に紹介する2。
- 9種類のゴミモンスターのカードが各数枚入ったカードの山から、順に1枚引いてめくる。
- 初めてみるモンスターなら、めくった人が「そのモンスターがなぜゴミなのか」を考えて名前をつける。
- 既に名前がつけられたゴミモンスターなら、その名前を参加者全員が呼ぶ。最初に思い出して名前を呼ぶことができた人が、それまでに重ねられてきたカードを貰うことができる。
- 一番カードが多い人が勝ち。
ゴミモンスターの名前をつける際に、恥ずかしがって名前をつけられない子もいる。その時に、周りの子が良いと思う名前を口々に言うと、それぞれ何がゴミで、どのようにゴミになってしまったか、別の点に着目していることがわかる。また、すぐに名前がつけられた場合でも、周りの子は自分のアイデアを言いたくて堪らないという感じだった。自分の考えた名前と周囲の子の考えの違いによって、「視点が広がった」という程明確ではなくても、何をゴミとするのか色々な考え方があるんだな、と思ってくれた子もいるのではないか。そのような子がいてくれれば私達の企画は成功である。
また単純に、当日はとても盛り上がった。何度も参加してくれる子がいたり、まだ幼稚園に入りたてくらいの年齢でゲームには勝てないのに人一倍テンションが上っていたり、オープンハウス終了時間になっても帰りたくないと言う子がいたりと楽しんでくれた様子だった。私はこれが何より嬉しかった。大学院生が幼稚園から小学校低学年向けに企画を考えると、○○について教えたい、となりがちである。企画を考え始めた当初は、私達もそのように考えていた。しかし、話し合いを重ね、先生方からも助言を頂いて、一緒に楽しく考えられる企画にしようという方向性に変わっていった。何かを一方的に教わるのは退屈だし、教わった知識が他のブースで得た気づきと結びつくことは無いだろう。一方で、一緒にゲームを楽しみながらそれぞれが自発的に考えることはとても楽しいし、地球研で半日過ごす中で得られた気づきの1ピースになるかもしれないと考えたからだ。
企画を考えるにあたって、数週間前から何度か集まって話し合った。今回のメンバーにはこれまでの地球研研修に参加したことがある人がいなかったし、運営の手伝いではなくIHSのブースをいただいて企画をするのは今年が初めてだったから、どのようなことをやったら良いのか分からず、話し合いがうまく進まないこともあった。しかし結果的には、コンセプトをしっかり固め、それを楽しいゲームに落とし込むことができたと言って良いだろう。ゲームのルールだけをみると、無邪気にふざけて考えた遊びに見えるかもしれないが、実際に遊んでみると、子供たちが深く考えずに発した言葉が(大学院生を含めて)お互いに考えるキッカケをつくるような場がつくれていることを確かめられた。
また、ゲームを考案するまでは時間がかかったが、それ以降は学期末で忙しい中お互い協力して当日までこぎ着けた。キャラクターのデザインや、カードの作成、会場の準備や、スライドや配布物の作成など、お互いの長所を活かしながら準備を進めることができた。数日前から地球研に宿泊し、朝昼晩みんなで一緒にご飯をつくったのもいい思い出である。
難しい言葉をつかって適当に誤魔化せない小さい子供と一緒に物事を考えるために、自分達が考えたコンセプトを簡単なルールに落とし込む作業はとても創造的で楽しいものだった。今回このような場を用意し、遅々として進まない企画準備に辛抱強くご助言頂いた地球研とIHSの先生方、一緒に参加したメンバーと当日参加してくださった皆様に感謝申し上げます。