The 4th East Asian Conference for Young Sociologists 2018 報告 申 知燕

The 4th East Asian Conference for Young Sociologists 2018 報告 申 知燕

日時
2018年2月5日(月)~6日(火)
場所
香港教育大学
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」

2018年2月4日から2月7日にかけて,プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」による香港研修に参加した.本研修は,香港教育大学で2月5日および6日に開催されるEACYs(East Asian Conference of Young Sociologists)に参加して口頭発表を行うことをその目的としていた.同学会は社会学及び隣接分野の若手研究者が日頃の研究結果を共有することで,東アジア各国の研究者間の学問的な交流を促すことを目標として毎年開催されていて,今回で4回目を迎えた.同学会には東京大学と香港教育大学の他にも,東北大学,北海道大学,延世大学,台湾大学,中山大学,そして台湾の中央研究院から若手研究者が集まり,それぞれ自分の研究について発表と議論を行った.今回のEACYsは宗教,労働,文化的実践,モビリティ,社会福祉,教育,理論的考察という,合計7つのパネルで構成されており,教員や大学院生,研究院の発表が続いた.

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筆者の発表はグローバルシティにおける韓国人の性的マイノリティ移住者についての内容で,モビリティのパネルに含まれていた.具体的な内容としては,トランスナショナルな移住が頻繁に行われるようになった近年,保守的な韓国社会の性的マイノリティに対する強い差別がプッシュ要因となり,性的マイノリティと自認する人々の一部は同性婚の制度を持つ諸外国での安定的な生活を目標に移住をしていることを指摘し,東京を事例に移住者のアイデンティティや移住経路,ならびに同性パートナーシップの現状について報告した.聴衆の多くが社会学者であったため,普段はあまり鋭く指摘されることのなかった社会階層や資本という面から質問とアドバイスを数多くいただいた.最初は経済資本という特定の変数についてのみ注目が集まることに困惑したりもしたが,似たような質問が続く中で,またその後の他の発表を聞く中で,社会学の視角が経済資本という変数に非常にこだわっていること,またそのような変数を研究の中で徹底的に統制し,突き詰めていくことに気付いた.もちろん,そのような議論は自分の専門である地理学が追求する鋭さの種類とは少し差があるかもしれないが,今後多様な背景を持つ人々を相手に自分の研究を発表する機会が増えるだろうと思うと,分野が違うにもかかわらずここまで丁寧に自分の発表を聞いてもらい,フィードバックをしてもらうことがすごくありがたいと感じた.今までは盲点でもあった部分を今後さらに改善する機会を与えられたようで,研究に対するモチベーションの向上にもつながった.

自分の発表以外にも,多様なテーマや手法を用いた発表を聞くこともできて,学問的な刺激を受けられる時間が続いた.筆者は普段の研究でエスノグラフィーを一つの軸にしていたが,周りに類似したアプローチを行う人が少ない状況にいた.しかし,今回は特にエスノグラフィーを念頭に入れた研究をする発表者が多く,とても勉強になった.また,テーマとしては,毎日国境を越えて香港で教育を受ける中国人幼稚園児のアイデンティティや,香港での留学後に就職を求める外国人留学生に対する研究などがあり,自分の研究と類似した手法や問題意識,文脈を垣間見ることができて,今後の研究のための参考になった.他にも,ヒジャブ着用問題を巡るディスコースについてポストコロニアリズムやフェミニズムの観点から分析した研究があり,とても興味深かった.ヒジャブ問題において,女性は毎日ヒジャブを身にまとわなければならない当事者であるが,常に論争の客体となっているだけで,実際にヒジャブの着用を決めるのは植民主義的な価値観や,政治的な利害関係,家父長制の背景を持つ男性であるため,女性は自らの声を出せない状態に陥っているということが丁寧に論じられていた.今までヒジャブに関連した発表は何回も聞いてきたが,ここまですっきり説明された発表を聞けたのは初めてで,とても印象深く記憶に残っている.

発表や議論だけでなく,食事を共にしながら学生間の交流も行った.5日の夜には参加者全員が参加する晩餐会が,香港人に人気だというリゾート地にあるレストランで開かれた.となりに座った香港教育大学の大学院生の方々と話しているうちに,東アジアで大学院生として生きる中で感じる悩みがすごく似ていることに気付き,各々の経験を語り合いながら打ち解けることができた.今は院生としてこの場にいるが,互いが研究を続けていけばいつかまた東アジアのどこかで会えるであろうことが容易に予想できて,研究の世界の中で共に頑張っていく同志に出会えたような気分になった.

公式的な日程が終わってから帰国までは,約半日ほどの自由時間があった.筆者はカメラを構えて香港島の都心へと向かった.香港は山も多く,狭い地域であるにもかかわらず,非常に多くの人口が居住しているため,彼らを全て収容する業務用・居住用の建築をする必要があった.そのため,斜面を徹底的にしてまで建てられた建物や,居住用の超高層マンションがすごく特徴的な景観を成していた.また,イギリスとの歴史的な関係による西洋風の建物や道路,公園が,漢字の看板や小さい路面電車,赤い装飾などと混ざり合い,独特な雰囲気を演出していた.街を行き交う人々も,中国系の人もいればヒジャブをまとったアラブ系の人,イギリス系の人もいて,世界都市としてのグローバルなつながりや多文化性を感じた.都心のビル群と住宅地区,香港大学を見学したが,少し移動するたびに街の雰囲気や店の種類,人種構成が大きく変わってきて,歩いたりバスを乗ったりするだけでも多文化共生を体験できたように思う.

2日間のインテンシブな学会ではあったが,色々なことを体験でき,学びも非常に大きい時間を過ごせた.このような大切な機会を設けていただいた香港教育大学の関係者の方々および参加者の方々に感謝の気持ちを申し上げたい.

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報告日:2018年2月14日