台湾研修「NTU-UTokyo Joint Winter Program 2018」報告 陳 海茵

台湾研修「NTU-UTokyo Joint Winter Program 2018」報告 陳 海茵

日時
2018年2月1日(木)~11日(日)
場所
国立台湾大学

本プログラムは,2012年から始まる東京大学と国立台湾大学の社会科学院の合同研修プログラムで、今年で六回目にあたる。両大学から多様な専門領域に在籍する学部・大学院生, 計36名が参加し,英語を公用語とした様々な学術,交流活動に取り組んだ。10日間の活動は主にエクスカーション,レクチャー,グループ調査の3つで構成され,以下よりスケジュール順にその内容を報告する。

2月2日に台湾大と東大の学生同士が初顔合わせし,アイスブレイクの一環として宜蘭市へのエクスカーションを実施した。午前中は宜蘭の地理と民俗史を学ぶために蘭陽博物館(Lan-Yang Museum)を見学し,プロジェクション映像やレプリカによる再現,多言語キャプションといった多様な工夫によって宜蘭の自然環境と生態系と共存する原住民の生活文化について学生同士が各々に理解を深めた。特に台湾大からの参加学生の中には宜蘭地域出身者がおり,彼女は幼少期から家族とともに頻繁に宜蘭を訪れて生態系の保全などの市民活動に参加し,台湾における民族的文化的多様性を維持することの重要性を訴えたことが印象的だった。午後は国立藝術伝統中心(National Center for Traditional Arts)という文化創意パークを訪れ,ここは伝統歌劇のパフォーマンスを無料で観賞できるほか,藍染めや茶,工芸品,駄菓子といった地域の名産品の製造工程を体験できる商業施設として観光客に人気のスポットだ。学生たちは園内を散策しながら,事前に希望に応じて振り分けられたグループ調査のメンバーとの親睦を深めた。

2月3日と5日の午前中は国立台湾大学の教授による講義が行われた。藍佩嘉教授は台湾と日本における介護職従事者における移民推進政策についてグローバル化における搾取構造に言及しながら両国の現状についてお話くださった。黃舒楣アシスタント・プロフェッサーは台湾における歴史遺産保護における市民社会や世論が果たしてきた役割についてお話してくださり,左正東教授はベトナムを始めとする東南アジア外交史を切り口に,アメリカや中国という大国間で揺れ動くベトナムと台湾の政治経済的政策の変遷,およびTPPをめぐる利害関係の衝突について網羅的かつ詳細に解説してくださった。

2月5日の午後から2月9日はグループ調査実習が行われ,7日午後は全体での中間報告会が挟まれた。TAを務めた5人の博士学生の研究テーマを元に,学生は事前にグループに分かれて4日間のフィールド調査を行った。調査テーマはそれぞれ1)台湾における東南アジア移民の労働問題,2)台湾におけるアートワールドと文化政策,3)台北市の路上生活者支援活動,4)北投温泉の観光地活性化のための経済政策,5)台湾における「新南向政策」について国際関係学的考察に分かれる。いずれも社会科学という大きな領域に属する異なる研究分野に位置付けられるが,学生は自身の専門領域に縛られず自由にテーマを選択することが可能であり,国籍も学年も専門も異なるチームメンバー同士で力を合わせて知恵を出し合い調査を完遂することが本プロジェクトの重要な目的の一つである。報告者のグループは「台湾におけるアートワールドと文化政策」について調査し,国際的に注目度の高いアーティストインレジデンスである「台北トレジャーヒル芸術村」に加え,クリエイティブ産業パークとして集客力の高い「華山1914文創園区」,台北ビエンナーレの主催として知られる「台北市立美術館 Taipei Fine Art Museum」を訪れて,アートディレクター,コーディネーター,アーティストといった計6名の関係者への聞き取りを実施した。戦後の退役軍人居住地だったトレジャーヒルや,植民地時代に建てられた華山1914造酒工場といった建築遺産をアートや現代カルチャーを創造,消費する場として再利用する実践において,台北市中心部に位置するこれらの施設は地理的な利便性を生かして,台湾の歴史に詳しくない外国観光客に対しても知名度と集客率の高さを実現している。また,人々にアートをより身近に感じさせるための工夫として,市民参加型の無料イベントの多さも特徴的で,教育や社交のプラットフォームとしてアート活動が生かされていることがわかった。

2月10日は,最終発表&全体討論が行われ,OB・OGも駆けつけて5つのグループ調査の集大成が披露された。報告者のグループについて言えば,3つの異なる施設を訪問した学生たちは,「クリエイティブシティ」という概念が台北市の政府と現場の実践者の間でどのように理解されているのかに着目して,現場の声をホリスティックにまとめた。多様な実践をあえて無理にまとめることはせず,今後の個々のケーススタディを通して議論を深めていく可能性を開いた発表になったと評価することができる。他のグループも分かりやすいスライドと高い英語力を駆使して,台湾が直面する様々な社会問題,外交問題,経済問題についてチャレンジングな提言をし,完成度の高い発表をすることができた。

プログラム全体を通して,東大生と台大生は早くから打ち解けつつも,議論,フィールドワーク,発表準備において妥協することなく徹底した意見交換が行われ,バックグラウンドの違いや言語の違いを乗り越えながらお互いに刺激しあい、高め合うことができたと本人たちは話した。教授陣からは今年は東大生が例年にも増して多く発言していたと評価された。最後に,台湾大学社会科学院の蘇國賢院長,童涵浦教授をはじめ,多くのスタッフがこのプログラムの円滑な遂行のために尽力してくれたことに心から謝意を表す。

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報告日:2018年2月18日