「現代日本における奴隷制度~外国人労働者問題の現場から~」報告 亀有 碧

「現代日本における奴隷制度~外国人労働者問題の現場から~」報告 亀有 碧

日時
2017年4月19日(水)18:00 - 20:00
場所
東洋文化研究所三階第一会議室
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」

本講演会では、株式会社Energetic Greenの垣原史歩氏より、日本における外国人技能実習制度の実態とその問題点についてお話ししていただいた。Energetic Greenは、一企業にとどまらず様々に連鎖する下請けや原材料の生産現場などを含めたサプライチェーンの中で、人権侵害が起きていないかを調査したり予防したりする企業のCSR活動を支援する事業を行っている。垣原氏は今回、ご自身が立ち会ってきた事例をもとに、外国人技能実習制度の中で実習生がいかに労働力搾取の対象とされているか、そしてそうした現状がいかに国際的潮流と逆行しているかという点を強調された。

1. 外国人技能実習制度の概要と批判の目

先に外国人技能実習制度の概要について説明しておこう。本制度は、1991年に設立された国際研修協力機構によって、発展途上国に対する「人づくり」での協力を目的としてはじまった。単純作業ではない技能が学べること、帰国後に技能を生かせること、保証金等を実習生から徴収しないこと等をルールに、3年に限って外国人を日本事業者が受け入れるという制度である。技能実習生は現地の送出し期間で語学等の勉強をしたのち来日し、受入れ管理団体にて再び勉強をし、そこから各実習実施事業者の元へと派遣されていく。2016年10月において、この制度を利用して来日した実習生の数は実に20万人を超えている。

しかし近年、本制度は諸外国からの厳しい目にさらされている。2016年の米国人新取引年次報告書は、本制度が人身取引であると批判し、日本は先進国最低ランクの「人身売買根絶の最低基準を満たさない国」に位置づけられてた。なお、人身取引とは、強制的な手段で自由を奪い搾取することを指している。

2. 外国人技能実習制度の問題点

では、この制度のどこに問題があるのだろうか? 本講演会ではまず、Vice newsの報道動画を見せていただいた。そこで映し出されていたのは、2020年東京オリンピックに向けた建築ラッシュの中で働かされたり、祖国では活かすことのできない技術を習得させられたりする実習生の姿であり、実習制度が発展途上国で役立てるための技術習得ではなく、単なる安価な労働力の調達手段と化している実態が暴かれていた。また、労働基準法違反の事案やハラスメントの存在も指摘されていた。

垣原氏によれば、問題は技能実習生、ブローカー、送出し機関、受入れ管理団体、実習実施事業者のそれぞれに起きている。技能実習生は日本語運用能力や制度自体についての知識を欠いたままに来日してしまうし、違法なブローカーや送出し機関に徴収される手数料によって借金を抱えている場合も多い。また送出し機関や受入れ管理団体は手数料を徴収するのみならず、表の契約とは異なる条件を付加した裏契約や裏ルールを結ばせたり、受入れ管理団体の一部は逃亡を禁止する為にパスポートを没収してしまったりする。実習実施事業者はすでに述べたように労基法違反の劣悪な待遇で実習生を働かせたり、教育が不十分であったり、ときに強制帰国を脅しとしてちらつかせたりすることがあるという。未だ実習制度の全体を掴む調査がなされていないため、こうした事例が全体に対してどの程度の割合で起きているのか分からないが、実習生が接触する一連の流れの中の全てではないにせよどこか1つにでも問題がある例は多いと垣原さんは指摘されていた。

3. 外国人技能実習制度の今後

世界的には、企業単位ではなく商品が消費者のもとに届くサプライチェーン全体を監視しようとする圧力が強まっている。英国で2015年に制定された現代奴隷法では、年間売り上げがおよそ51億以上で英国にも事業を展開している企業は、HPに「奴隷と人身取引に関する声明」を発表しなければならないと定めた。こうした流れを受けて、各企業はCSR調達方針やガイドラインを策定したり、実態調査や監査に乗り出している。消費者の目に留まりにくい一次・二次産業に関わることの多い外国人技能実習制度もまた、こうした世界的潮流から自由ではいられない。日本では2016年に技能実習生法が新たに成立し、外国人技能実習機構が設立されたり人権侵害に禁止や罰則を設けたりすることが決まったが、実習期間の延長や人数規模の拡大、職種に介護が追加されたなどの側面をみるとこの法案の思惑は、現にある人権侵害の防止にあるだけではないのだと推測させる。

質疑応答において興味深かったのは、本制度において「技能実習」という建前と安価な労働力を調達したいという本音が乖離していることをふまえ、現実にそぐわない建前は放棄したうえで、労働力の調達を彼らの人権の担保と共にいかに可能であるか模索すべきだという意見が提出されたことだ。たとえば、移民として受け入れることで彼らの雇用状況改善を考えていくのが正道であるという意見である。実習制度は現に、移民は受け入れたくないが労働力は必要であるという日本側の思惑の抜け穴と化している。

しかし他方、技能実習制度を移民の受け入れへと転換したところで、市場原理に則って──すなわち日本側と外国人労働者の需要と供給が一致して──より安価な労働力に外国人が貢献することによる、結果としての差別的な国家の在り方自体の変革は、期待できないのではないか。インターナショナリズム不在の世において、移民・技能実習制度問題は、これを促進してグローバル資本主義の土壌における経済発展を目指すか、これを廃止して国内の再分配を強化するナショナリズムを許容するかどちらかの案へと収束しているように思う。そのような前提において、この「実習」という理念それ自体を第三の道としてより有効に活用していく術はないのだろうか、またこの理念はすでに大量の移民を受け入れている諸外国の制度に比べてポジティブな面はないのかという点も考察してみたいと思った。

垣原さんは、「技能実習生なくては私たちの生活は成り立たない」ということを認識して、本問題を自分自身の関わる問題として考えてほしいとおっしゃった。また質疑応答の際に指摘されたように、人を労働力としてしかみなさないような本実習制度に代表される態度は、若者の派遣労働問題等へと通じており決して外国人に限った問題ではない。本講演会では何度か2020年東京オリンピックに向けて労働力の切迫した現代日本の現状について言及された。報告書は先日の大阪「ココルーム」研修において、かつて釜ヶ崎にいた労働者たちがオリンピックのための建設現場へと流れているという現状を伺った。ポジティブな面ばかりが喧伝されているオリンピックへと向かう現代日本のこうした裏面を注視していくこともまた、日本全体の課題であろう。

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報告日:2017年4月20日