Documentary Screening: 2306─Wanderers in Beijing(北漂)報告 申 知燕

Documentary Screening: 2306─Wanderers in Beijing(北漂)報告 申 知燕

日時
2016年6月29日(水)17:00 - 19:00
場所
東洋文化研究所三階第一会議室
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」

今までプロジェクト4では、1ヶ月に1度ほどの頻度でランチアワー・ミーティングを行い、学生たちがそれぞれの研究について、その進捗状況や内容、悩みなどを共有してきた。ミーティングの延長と言える今回の企画では、Hou Jiaxiさんの研究に関連し、彼女が以前直接企画・制作した「2306─Wanderers in Beijing」というドキュメンタリーを鑑賞し、Hou JiaxiさんおよびコメンテータのDipesh Kharelさん(独立ドキュメンタリー制作者)と共にディスカッションを行った。

同ドキュメンタリーは、北京で働くために上京したものの、経済状況や戸籍問題が解決されないせいで劣悪な単身者向けの居住地で生活する若年層の人生を描いている。近年、資本主義への転換を迎えている北京では、賃金に比べて物価が高くなった上に、住宅市場のバブルも続いており、若者が一人で経済的に自立し、その後の人生を計画することはなかなか難しくなってきたという。また、社会主義の遺産でもある戸籍制度は、急激な資本主義政策とは噛み合わず、労働力の活発な移動にも関わらず、長期的な都市生活には様々な制約要素となっている。とりわけ、地方大学の卒業生で、大都市にしか職がないような仕事を専門とする若年層の北京への移住が顕著となったが、彼らの多くは違法的に改造された4㎡の部屋を借りて暮らしている。映像が捉えた人物たちは、そのような違法住宅に入居している未婚男性たちで、彼らは今までの人生や、普段の生活、今後の夢などを語っていた。

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映像を鑑賞した後は、Hou Jiaxiさんからの制作過程の裏話や、ドキュメンタリーを撮影した後に登場人物たちの人生に起きた変化などを聞くことができ、中国の大都市における若年層の生活をめぐった厳しい現実をより深く理解できた。若年層の貧困や不安定、住宅問題などは、急激な経済成長を成し遂げている中国で可視化しているが、経済発展がある程度落ち着いた東アジア諸国でも類似した様相がみられる。韓国にも(違法ではないが)4-5㎡程の劣悪な部屋に貧困層や外国人労働者が多数居住しており、日本ではまとまった居住費用を用意できないまま漫画喫茶を転々とする居住難民が最近注目されるなど、それぞれの国で社会問題となっている。

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ただ、このような社会問題に気づき、影響力のあるコンテンツとして作り上げることはすごく大変なことであり、自分が研究を行う中で常に悩んでいたことでもあった。そのために、ドキュメンタリーそのものだけでなく、研究者でもある制作者の話が直に聞けて、すごく有意義な機会となった。さらに、専門的なドキュメンタリー制作者からのフィードバックを聞く中で、コンテンツの見せ方についても学ぶことができたので、今後自分の研究にも応用していきたいと思う。

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報告日:2016年7月6日