「多摩草むらの会」訪問 高村 夏生

「多摩草むらの会」訪問 高村 夏生

日時
2018年2月7日(水)
場所
NPO法人「多摩草むらの会」(東京都多摩市)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

2月上旬、実験実習Ⅲ「障害の現場」の研修としてNPO法人多摩草むらの会の事業所を訪問した。一日をかけて、多岐にわたる就労支援の現場を見学させていただき、代表理事を含めた職員と利用者(以下メンバー)の方々にインタビューをさせていただいた。字数の制限上、研修内容の濃さに比してかなり簡潔ではあるが、以下、本研修を振り返って報告したい。

本研修の訪問事業所

NPO法人多摩草むらの会は現在、10の就労支援事業所、相談支援センター、そしてグループホームを運営している。その中でも今回は以下の3つ

  • 夢畑(農産物の生産・販売 / 就労継続支援事業B型)
  • 夢うさぎ(雑貨小物の製造・販売 / 就労継続支援事業B型)
  • 畑 de きっちん(レストランの運営 / 就労継続支援事業A型)

を訪問させていただいた。

個々の事業所では様々なお話を伺うことができたが、各所に共通していた(1)ひと中心の職場づくり、(2)収益を明確に意識した姿勢、(3)多様な協力と連携のあり方 、の3点に注目して報告をまとめたい。

(1)ひと中心の職場づくり

まず感じたのは、はたらき方のデザインの工夫である。例えば会全体では、一人のメンバーが2つまで事業所登録ができるという。「夢うさぎ」のメンバーさんからは職場の「お試し」ができて良いという声が聞かれた。加えて「夢畑」では、メンバーは、午前・午後それぞれにおいて複数の仕事の中から自分に適したものを選ぶことができる。こうした「選択肢の確保」は多摩草むらの会全体に通じる姿勢であるようだった。また、メンバーの方が作業の全体を担えるような取組みもなされていた。例えば「夢うさぎ」では、一製品の制作工程を分担せず、一人で最初から最後まで仕上げる形がとられている。「畑deきっちん」でもホールと厨房のどちらの仕事も経験できるようになっていた。「夢畑」でも、1人1人が各自の作業上の注意点を言い、危機管理意識を徹底することで様々な作業への機会を開いており、総じてメンバーの方が仕事の幅を広げ、よりやりがいと責任をもってはたらける環境がつくられていた。

さらに、メンバーの安心と自立を支える取組みも興味深かった。「夢うさぎ」では個別支援計画に基づき振り返りの機会を設けているそうだが、そうした機会に頼りすぎず「日常のことは日常で聞く」ことを心がけているという。立ち話から出てくる「実は」に日々の悩みが表出されることもあるからだ。「畑deきっちん」の責任者の方は、何かあったら対応するし、配慮もするけれど、バランスをとることが大事だと述べていた。悩みがあったら自ら発信するように促し、見守ることも優しさという姿勢で向き合っているという。そうすることで、むしろその人らしさが活かされ、自立や充足感につながっているように思われた。

ihs_r_3_180207_kusamura_01.jpg

(2)収益を明確に意識した姿勢

「親亡きあと、子の生活はどうなるのか」という問題意識から出発した「親の会」をその前身とする多摩草むらの会では、賃金アップが明確な目標として共有されていた。その中で、「夢畑」ではまず、原価をかけずに商品を生み出す努力に驚かされた。花のないこの時期は拾ってきた松ぼっくりで雑貨を作り、先日も敷地に自生しているセリやなずな等の七草を集めて、七草セットとして販売したそうである。さらに職員からは「趣味では困る」という言葉も聞かれ、質のためには妥協しない姿勢も窺えた。何より、仕事を作る、品質を上げる、その結果としての売上が工賃に反映されるということを、メンバーの方がはっきり意識して、メンバー主導で商品企画が為されていること、そしてそれが全体のモチベーションを高めているように見受けられ印象的であった。「夢うさぎ」でも夢畑同様、品質へのこだわりと誇りを感じた。「良いものは売れる」とはっきり話され、作るときは趣味の手芸にならないよう事前に決めたデザインで制作し、売るときも福祉商品としてアピールはしないとのことだった。職員の方が仰っていた「きちんと売ることで人と社会がつながる」という言葉は、質を意識してはたらくことが、結果的にやりがいにつながることを改めて示していただろう。「畑deきっちん」でもその姿勢は顕著であり、職員の方は「相応の代金をいただくことに伴うお客さんの厳しさに向き合う必要がある」と話されていた。実際、畑deきっちんの時給は964円であり、1日8時間、週5時間働かれているメンバーさんからは安定した収入に基づく充実した生活がうかがえた。総じて収益を高める取組みを、圧力や負担ではなく、やりがいやQOLの向上につなげることで、好循環を生み出しているように感じられた。

(3)多様な協力と連携のあり方

各事業所におけるお話、そして風間代表へのインタビューを通じて感じたのは、多摩草むらの会の「つなが(げ)る力」である。「外」との繋がりとしては、「夢畑」ではその農地を地元の人が貸してくれることから始まり、技術においては専門家の知見を積極的に取り入れ、産学連携の新品種や栽培法の勉強会にも参加している。加えて、貴重な地場・減農薬野菜の売り手として道の駅や業務用スーパーと提携しているそうだ。「夢うさぎ」でも材料となる布類の提供を受けたほか、「畑deきっちん」開業時には、それまでの地元信金との信頼関係が開店資金の無担保融資につながったという。「内」の繋がりとしては、「夢畑」の農作物を「畑deきっちん」に卸したり、「夢畑」「夢うさぎ」の雑貨を他事業所に販売したりといったグループ内売上があることで、個々の事業所の柔軟性と組織全体のロバストネスが高められていることが指摘できる。こうした外も内も巻き込んでいく力が、組織全体の展開力、突破力につながっているのかもしれない。

ihs_r_3_180207_kusamura_02.jpg

最後に ──多様性と共生

しかしこうした力はどこから来るのか。風間代表個人に帰することも可能ではあるが、私が注目したいのは多摩草むらの会の多様性である。例えば「夢うさぎ」責任者の方は、不動産関係の法務の仕事に就かれたのち医療機器メーカーに勤め、今では精神保健福祉士の資格をとって働いている。こうした経験は、自立を目指すメンバーの方の様々な質問に応えるのに、非常に役立っているという。また「畑deきっちん」の責任者の方は秘書として仕事をされていたが、自身のうつをきっかけに現在の職に至ったそうだ。職だけでなく当事者としての経験が、メンバーも職員も区切りなく「(それぞれに違う)その人」として向き合う姿勢の揺るぎなさを支えているように思う。他にも「夢畑」では、関連職の経験のあるメンバーと職員が農作業機材を自作していたり、今回の研修を全て手配くださった事務局職員の方は、ドイツの国際産業見本市オーガナイザーという福祉とは全く異なる職歴を生かしていらしたりと、例をあげればきりがない。

こうした各々が自身の経験・スキルを持ち合って働く姿は、支え合うというよりも「活かし合う」という表現がふさわしい在り方に見えた。そしてそれは、組織を支える土台の堅固さにつながると同時に、「共生」という言葉が表し得る状態の、一つの理想を示していたとも思う。この度の非常に濃い研修を実現してくださった法人の皆様に感謝しつつ、本研修が、多様性が目に見える価値として具体的に現れていることを体感する機会にもなったことを述べて、本報告を終わりにしたい。

ihs_r_3_180207_kusamura_03.jpg

報告日:2018年2月7日