障害の現場 べてるの家ウィンタースクール」報告 山田 理絵

障害の現場 べてるの家ウィンタースクール」報告 山田 理絵

日時
2016年2月3日–10日(移動日含む)
場所
浦河べてるの家(北海道浦河町)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」
協力
社会福祉法人 浦河べてるの家

2016年2月3日から10日まで、北海道浦河町の社会福祉法人「浦河べてるの家」で一週間のウィンタースクールが行われた。同ウィンタースクールは今年度で3回目の開催であり、報告者は昨年に続き2度目の参加となった。

今年度の主な活動は、べてるの家の関連施設内と、その周辺地域で行われた。前者は、通称「ニュー・べてる」の建物(写真1)で平日に行われるミーティングや、べてるが販売している乾燥こんぶや織物などの品物を商品化する作業体験であった。また、ウィンタースクール参加者が自身の研究発表を行った。後者は、浦河教会におけるスキゾフレニック・アノニマス(SA)や日曜礼拝への参加、べてるの家が運営する「カフェぶらぶら」におけるTKK(「当事者研究の研究」の会)への参加、そして浦河ひがし町診療所の訪問であった。以下では、ミーティングの詳細と研究発表の概要、また診療所でのお話の内容について簡潔に記したい。

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(写真1)ニュー・べてるの家

べてるの家には利用者に向けていくつかのスローガンが設定されている。そのなかのひとつに「三度の飯よりミーティング」というスローガンがあり、そのスローガン通りに平日には様々な時間帯に多様な形式のミーティングが開催されている。ミーティングは、定期的に開催されるものと、臨時で開催されるものがある。定期的に開催されるものは、毎日定時に行われる早朝ミーティング、曜日ごとに開催されるSST(Social Skills Training: 生活技能訓練)や当事者研究(写真2)などである。私たちは今回、これらのミーティングに参加し、べてるの利用者の方々の間でどのようなやりとりがなされているかを見学した。ミーティングの開始時には、参加者の間でマイクを回しながら、体調と気分を報告することが決まっている。それ以外に発言する時は、挙手をして司会にあてられるのを待つことが原則になっているようだったが、べてるの人々の中にはどんどん浮かぶアイデアをすぐに発言する人もいて、ミーティングは常に賑やかなまま進められていた。また、我々が参加する機会はなかったが、定期的なミーティングとは別に、利用者の間でなにか問題が起こった時に臨時のミーティングが設けられるそうである。

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(写真2)当事者研究の様子
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(写真3)利用者の方のスケジュール管理

ウィンタースクール参加者の研究発表の時間には、生命科学や文学、社会学、哲学などを専門とする各人が、自身の専門領域と、障害や疾病、もしくは医療や福祉とを関連付けた発表を行った。私は、「病気になるとはどういうことか――病むことと社会・文化との関係を考える」という題目で発表した。具体的には、医療社会学や医学史、医療人類学の立場から行われた研究結果を参照しながら、ある精神疾患が医学的に定義されるときに、その定義は社会とどのような相互依存関係にあるのかや、人々は病気にかかっている自分自身の状態をどのように感じたり、それを表現したりするのかについて考察を加えた。また、この発表に引き続き、ウィンタースクールの参加者が、1月にプロジェクト3の授業「障がいの現場【海外篇】」で実施されたイギリス・デンマーク研修についての報告を行った。ここでは、日本とイギリス、デンマークの3か国の精神医療・保健福祉の特徴や差異について紹介し、このことについて、べてるの家のメンバーとディスカッションを行った。

また、今年度は浦河ひがし町診療所を訪問し、精神科医の川村敏明先生から浦河周辺の精神医療の歴史と現状についてお話をうかがった。具体的には、川村先生とべてるの家の人々がどのように関係を築いてきたのか、また浦河赤十字病院内の精神科病床が廃止されたのち、どのように精神障害を持った人々をケアしてきたのか、などである。川村先生のお話の中で特に印象的だったのは、べてるの人々を含めた浦河の地域の人々との関わりを通して、「精神障害」の捉え方や、精神障害を持った人々へのアプローチ方法が徐々に変化していったという点であった。さらに、川村先生やべてるの家の支援者の方々が、あえて「病気の苦労しかできなかった人たちに、生活の苦労をさせる」ことがケアにつながると捉えている点も非常に印象的であった。

今回、精神医療の脱施設化を実現させた浦河町を訪問し、精神科医療の周辺にいる人々や精神障害を持つ人々のお話をうかがった。様々な立場の人々のお話から、浦河では地域全体で「精神障害」という不確かなものを試行錯誤を繰り返しつつ、引き受けてきたということを改めて強く感じたのであった。

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(写真4)べてるの家関連施設周辺の風景

報告日:2016年2月3日