2017年度つくばみらい市農業実習夏合宿 報告 長江 侑紀

2017年度つくばみらい市農業実習夏合宿 報告 長江 侑紀

日時
2017年8月21日(月)〜22日(火)
場所
茨城県つくばみらい市寺畑およびその周辺、古民家松本邸(合宿場所)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス――市民社会と地域という思想」
協力
NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」、東京大学大学院農学生命科学研究科

お盆休み明けの、田んぼ一面の稲穂の頭が下がり始め、その上をトンボが飛び回る8月の下旬。報告者はIHS教育プロジェクト2ならびにNPO法人「古瀬の自然と文化を守る会(古瀬の会)」と、東京大学大学院農学生命科学研究科(以下「農学研究科」)とが共同実施する農業実習へ参加した。報告者がこの農業実習へ参加するのは、昨年度も開催された夏合宿、今年度6月を合わせて3回目である。蚊取り線香と畳の匂いがほのかに漂い、まるで「田舎のおばあちゃん家」を想起させる、古瀬の会が運営する瓦葺きの古民家を思いながら、集合場所へ向かった。今回の夏合宿では、畑での農作業、農業関係各所へのフィールドワーク、古瀬の会の方々との合宿活動が予定されていた。この日IHSからは梶谷先生を初めとする6人と、長年古瀬の会の皆さんと交流を持ち、毎年農業実習を行なっている小林和彦先生が率いる農学研究科の学生の約15人が参加した。

実習の二日間は概ね、天気は曇り時々雨の予報がでていた。到着時には分厚い雲で上空は覆われており、悪天候を心配していたが、結局良好な天候のもとで農作業をすることができた。畑にはサツマイモの葉が一面に生い茂っていた。1人の「おっちゃん」(実習中私たちのお世話係を引き受けてくださる、古瀬の会の方の愛称)に畑のことを伺うと、サツマイモに適切な土壌、栽培の方法、コツを滔々と説明される。ちなみに、この畑は営利目的のものではなく、地元の小学校の体験学習や、親子参加のイベント等のために用意されたものだということだ。

古民家の居間に机を並べ、みんなで昼食をとる。こんな風に作業をした後に誰かと食卓を囲むのは、どこか懐かしい感覚であった。二日目のそうめん流しやスイカ割りも、とても楽しく、とても美味しかった。昼食の片付けをし、縁側でしばし和んだのち、フィールドワークへ出かけた。行先は3つ。参加学生は①JA直売所、②トマト農家、③稲作農家のうちから一つ選び、三グループに分かれた。報告者は①JA直売所「みらいっこ」へのフィールドワークへ参加した。同行したのは、小林先生、農学専攻学生4人、古瀬の会からおふたりだ。JA直売所へ到着すると、所長さんと職員さんが迎えてくださった。約1時間のインタビューを行い、実際に店舗の見学をさせていただいた。インタビューでは、JA直売所と生産者(地元の農家)の関係(会員登録、連絡の取り合い等)、直売所の運営(出店経緯、業績、販売製品、地域の中での役割等)が話題に上がった。ここで特筆すべきは、JAの職員さんにインタビューすることで、日本の農業で大きな影響力を持つJAがこの地域でどのような役割を担っているのか、つまり、全国組織のローカルでの機能や実際の在り方について伺えたことである。ミクロとマクロの議論をつなぐ重要な対象にインタビューできたことで得られたことは多い。

インタビューから、現場を通して見えた日本の農業の事例として、ここで指摘できる点が5つある。①JAは、この直売所を、地域の農家さん(生産者)の所得向上を支援できるものだと認識している。ただし、直売所の売り上げから単純計算すると一戸(会員)あたり年間40万円前後なので、お小遣い程度の金額である。②そうはいっても、登録している会員の6〜7割は高齢者であることに鑑みると、現在の所得に追加で収入が得られていることは重要なので、生産者側が参加する動機があることをJAは想定している。③主な消費者は、地元の住民、近隣のエンターテイメントの利用者である。直売所は、毎朝生産者から届けられる新鮮な農作物を手頃な価格で提供可能であることがいい点であると認識している。ちなみに、設立前のマーケティングリサーチ(立地、周辺の他社競合等)は力を入れて実施されたかどうか現在の職員は把握していない。④価格は生産者がつける個選である(cf. 共選:生産者が一堂に品を持ち込み、選果場で規格に則り価格を決定し、品の選定する)。よって、JA直売所は生産者と消費者を繋ぐ仲介業者であるが、売買の「場」の提供のみを目的としており、価格競争は生産者間でおきている。例えば、希少価値の高い農作物を生産する、値段決定の際に同種の品を参考にする、効率的な栽培方法を発案する等が事例としてあげられた。⑤よって、JAは積極的に生産者に介入できないし、逆に支援もしない。例えば、直売所としての利益向上を第一にした場合、購買率の高い商品やブランド作物を出荷してほしいが、農家のキャパシティに合わせた出荷量を受け入れるのみである。同種の作物の供給過多を防ぐために、生産者へコントロールをお願いすることはある。反対に、新規参入農家に対して、出荷量を増やすため等の農業ノウハウを生産者間で共有する等のサポートが行われることを希望するが、積極的にある対象にお願いすることはない。以上がインタビューで伺った中で、私が関心を持ち、ノーツを取った箇所である。ただ、実際に会員数や価格の変動、生産者・消費者の傾向を見ていないため、以上のことを事実であるかのように提示はできないが、少なくともJAの職員は上記のように認識していた。

二日目の午前中に、3つのグループごとにフィールドワークのまとめを発表し、内容を共有した。IHS生は発表に直接参加しなかった(農学専攻学生が中心に担当)が、発表後の議論を含めて社会調査の面白い点が見えた。ここでは「農業」を軸にして、農学に特化した専門的な話がされていたが、(インタビューや参与観察といった社会調査である限り)その調査の仕方は、報告者が普段研究しているものと共有される点が多くあった。また、報告者が強く関心をもつ社会学的な視点から考察できる、特に日本社会の高齢化、家族のあり方の変容、主要産業の変化を、農業又は農学という視点で切り取ると、議論の内容が変化するという面白い場面に出会うことができた。発表の後に、農学専攻の学生の研究に対する態度や、科学研究と技術研究の両方に接続する農学の立場の取り方、研究方針について小林先生の考えを共有していただくことができ、こちらも大変に貴重な機会であった。

他にも、おっちゃんやお世話係の方々とのお話の中でも、興味深い内容を多く聞くことができた。彼ら、もしくは彼らの親戚・友人らが働く場における「外国人労働者」の存在についてだ。これは、報告者が強い関心をもつトピックである。私が参加したIHSの他イベントでも主題にされたように、マクロレベルでは労働のための「移民」や「外国人労働者」に関して最近よく議論され、私自身も耳にする機会も多い。そして本研修で出会った地元の人々の生活の中に認識されるほどこのトピックは身近なものになっていることを私が再認識する貴重な機会であった。労働の場における話だけではない。彼らの家族の生活に関わる様々な場面、例えば幼児の保育園通園に関しても、個人として経験される葛藤や困難等、いろいろあるようであった。この点において、政策動向を追うだけではなく、やはりミクロレベルで人々の声を拾い上げ、一つ一つの経験・事例から学んでいく型の調査や研究が必要であることを再度確認できた。

毎回新たな発見を期待して参加するつくばみらい市への農業実習だが、今回もその期待は裏切られることはなかった。充実した二日間であった。

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報告日:2017年8月24日