「オリーヴが開く小豆島の未来──地域振興の鍵」報告 國重 莉奈

柳生好彦氏講演会 「オリーヴが開く小豆島の未来──地域振興の鍵」報告 國重 莉奈

日時
2017年5月11日(木)12:30 - 13:30
場所
東京大学駒場キャンパス101号館2階24号室
講演者
柳生好彦さん (小豆島ヘルシーランド株式会社 前社長・現相談役)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト1

今回の講演では、「小豆島ヘルシーランド株式会社」の相談役の柳生好彦氏に、オリーヴを通じた地域振興についてお話をいただいた。柳生氏はオリーヴを食品や化粧品として製造・販売する事業を行うと同時に、小豆島の観光開発や、アートプロジェクトによる街づくりの試みなど様々な活動を展開されている。今年2月に行われたプロジェクト1主催の瀬戸内研修「アートによる地域振興」では、幅広い事業活動を見させていただいき、この事業の舵取りをしてきた柳生氏は一体どのような人物なのだろうかと興味をそそられた。本講演会では柳生氏本人から、ヘルシーランドの事業のこれまでとこれからについてお話を伺うことができた。

柳生家では元々プロパンガスや酒の小売りをする商店をしていたが、小豆島出身の高橋荒太郎氏(元・松下電器産業株式会社会長)の助言を得てオリーヴの事業を創業したという。化粧品と食品から始まったオリーヴ事業であったが、その後ヘルスケア分野へと拡大し、これからは医薬品の開発を目指しているそうだ。ヘルシーランドの事業はオリーヴを用いた商品のみならず、温泉やアート、「オリーヴ神社」など、オリーヴを軸とした様々な事業へと広がりを見せている。

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<人と人とのつながり>

ヘルシーランドの事業の歴史を様々なエピソードを交えながら辿ると、柳生氏が人と人とのつながりを大事することで事業を広げてきたことが分かる。例えば、今や島のシンボルツリーとして受け入れられている樹齢千年のオリーヴ大樹であるが、この大樹をスペインから小豆島に移植することができたのは、プラントハンターの西畠清順氏とのつながりがあったからこそである。人と人とのつながりを大事に、と言うと当たり前のように聞こえるかもしれないが、柳生氏はそれを徹底的に行ってきたのだと思う。徹底的に人との出会いを大事にすることで遠くの縁までを引き寄せ、傍から見ると不思議なつながりを持った人のように見えるのだろう。

<オリーヴをつきつめる>

もう一つ特徴的なのは、オリーヴという軸を持ちながら広げていくというところだ。普通なら、一つのものにこだわってしまうと広がりが生まれにくいように思われる。しかし、柳生氏の事業ではオリーヴという枠を設けることで、そこから多方面に事業が広がっていることが分かる。オリーヴを徹底的につきつめることが、むしろ事業に広がりを生んでいるようだ。そのことは、ヘルシーランドでの研究活動において如実に表れている。例えば、普通オリーヴオイルというと、オリーヴの実を搾ったものだが、ヘルシーランドでは葉からもオリーヴオイルをとっている。また、採れたオリーヴをそのまま搾るのではなく、発酵させてから搾ることでより理想的なオリーヴオイルが得られることも研究により明らかになったそうだ。このようにオリーヴを丸ごと活かすという姿勢は、さらに広がりを見せ、最近ではオリーヴの木につく菌に注目しており、皮膚炎の改善に効果があるのではないかと考えているらしく、オリーヴとの出会いを最大限に活かそうとする探究心が伺える。

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柳生氏は、人にしてもモノにしても、その先に何かがあるに違いないと信じることで希望を現実のものとしてきたように思われる。柳生氏が以前ローマ法王と握手する機会があったとき、ローマ法王の力が伝わってきたと話されていたが、そのエピソードからも人とのつながりを信じる力が並大抵ではないことが伺える。そうした得体の知れない力についてのお話を聞いていると、科学を志す者としては構えてしまうところもある。特に自然科学の世界では、科学者の信念が得られる結果に影響を与えてしまうことを恐れ、そうした信念を排除しようとする傾向があるように思うからだ。しかし、柳生氏のお話を伺うと、そのような得体の知れない力を信じることこそがオリーヴ事業の原動力となっていることも確かであるようだ。

私にとって今回の講演会における最大の収穫は、柳生氏の人とのつながりを大切にする姿勢や、一つのことをつきつめるという柳生氏の姿勢を学ぶことができたことであった。また、「これ」と思った人やモノを信じ、生き生きと事業を展開する柳生氏の姿には大いに刺激を受けた。

関連URL
小豆島ヘルシーランド株式会社

報告日:2017年6月6日