駒場博物館特別展『境界を引く⇔越える』関連イベント
講演&学生研究紹介報告 椢原 朋子

駒場博物館特別展『境界を引く⇔越える』関連イベント
講演&学生研究紹介報告
椢原 朋子

日時:
2015年6月12日(土)14:00−16:00
場所:
東京大学駒場Iキャンパス 駒場博物館
講演者:
林容子氏(アーツ・アライブ 代表理事)
山田理絵(総合文化研究科・博士課程2年)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3

この日は一般社団法人アーツ・アライブ理事の林容子さん、本プログラム生博士課程2年の山田理絵さんからお話を伺った。

一般社団法人アーツ・アライブは「アーツ・コミュニケーション・プロジェクト(ACP)」というアートが認知症や医療福祉へもたらす可能性を広げる活動を行っている団体である。具体的には、医療現場などにアートを取り入れることで患者さんのQOLを向上させたり、認知症の方たちとワークショップを行うことで認知症を改善させるというような活動を行っている。その活動の一部をお話ししていただいたが、私はその話のなかでも科学とアートの関係性に興味を持った。上述のような活動を行う際に、アートがもたらす医学的な影響について科学的な根拠を求められるという。その証明を統計学的に行うためには、似通った健康条件のヒトを300名以上集めなければならない。しかし、そのような統計学的な評価が適正かは疑問である。林さんも述べているように、アートを見て感じることは人それぞれで、効果も一概に評価できるものではない。つまり、科学はそれぞれのヒトを同一化するのに対し、アートは個別化する。それにもかかわらず、統計的にデータを処理した科学的根拠のみで、アーツ・コミュニケーション・プロジェクトの活動を評価するのは適正であるとは言いがたい。数値では表せない可能性がそこには確かに存在する。ワークショップに参加された認知症の方は、はじめは三角や四角を書くのさえ困難だったのに、ワークショップの後半には見違えるような絵を描けるようになっている。定量化は出来ないが、確かに効果はある。しかし、かといって信頼できる評価をどう下せばいいだろうか。そもそも定量的な科学的根拠は信頼に値するものなのか。科学の在り方を考えさせられた。

後半は、山田理絵さんが「病気になるとはどういうことか?──病むことと社会・文化の関係を考える」というテーマで発表された。ウイルスや細菌が原因の病気は、原因さえ特定できれば定義は簡単である。しかし、心の病は同じように定義することは難しい。また定義が病を生み出すこともあるという内容のお話であった。しかし、病であることを自身で否定したために症状が悪化することもある。どのような場合、治療が必要になるのだろうか。私が最も納得したのは、本人もしくは周囲の人が「困って」いることが一つの定義になる、という説明だ。病とは決して定義により強硬に決定されるものではなく、我々の普段の意識よりもっと柔軟なものなのかもしれない。

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報告日:2015年6月20日