Workshop for Methodology in Multicultural Settings: Interviews and Fieldwork 報告 中川 ゆりや

Workshop for Methodology in Multicultural Settings: Interviews and Fieldwork 報告 中川 ゆりや

日時:
2015年7月28日(火)
場所:
東京大学本郷キャンパス情報学環本館6階実験室
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」

自身の研究でフィールドワークを基に民族誌(エスノグラフィー)的な調査をする機会が多く、かつオタク文化と呼ばれるようなサブカルチャーに昔から関心があったため、今回はじめてプロジェクト4のワークショップに参加した。まずは、このような素敵な会を開催してくださったプロジェクト4に関係する皆様に感謝を申し上げたい。

前半の黒坂さんのお話からは、対象地に長期滞在し、参与観察やライフヒストリーを結果・成果を急ぐことなく信頼関係を大切にしながらじっくりと調査していくような方法論について、豊富なご経験の紹介の中から学ぶことができた。特に、膨大なフィールドノートを書き留めたという黒坂さんの注意力、記憶力や問題発見力には非常に驚かされ、それは天性のものなのかあるいは訓練を経た能力なのか気になるところであった。また、「これも(フィールドノートに)書かれてしまうんでしょう」という地元の人の言葉から受けた衝撃や、論文など外部に出す文章は必ずまず本人に確認を取るようにしていたという丁寧な行動は、同じエスノグラフィーの手法を検討している身としても、とても参考となった。質疑応答の際にお伺いした「効率のよい調査などない」という黒坂さんの言葉の重みは非常に大きなもので、時間に追われ結果を急ごう急ごうとしてしまいがちな自分やその他多くの研究者にとって貴重なメッセージとなったと思う。一方で、今回は手法に重点を置いたワークショップではあったが、部落差別を受けている住民の方々やハンセン病患者の方々などとの黒坂さんの独特な経験を、より深くまで伺うことができたらますます良かったのではないかとも感じた。ぜひ、次回以降お時間あれば、調査対象地での驚きや発見、新たな価値などについても共有していただければと思う。

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後半のスピーカーであったパトリックさんには、パトリックさんが用いている調査手法やコンセプト、およびフィールドワークを通じて得られた学びなどについてお話いただいた。特に "Learning with people and learning in the world" という言葉は、先の黒坂さんの内容にも通ずるところがあるかと思うが、やはり自分本位にならず周囲に溶け込んだり、周囲と協調して調査を進めていったりすることの重要さを改めて感じさせられるものであった。一方で、ラポールを形成する(これを、パトリックさんは "To make myself visible" と表現しておりとても面白いと感じた)ために、積極的に秋葉原の活動(コスプレやデモ行進など)に参加するというのは、最初は抵抗もあったのではないかと想像するが、どのようにきっかけを得て、そしてどのようにそうした思い切った挑戦への第一歩を踏み出すことができたのか、気になるところであった。もしも私がパトリックさんだったら、当然現地の人々が重要視している多くの活動へ幅広く経験したいと強く願うだろうとは思うが、その一方で「自分が加わって邪魔にならないだろうか?」「文化や背景の違う自分が、軽い気持ちで面白半分に参加していると思われないだろうか?」などと不必要なまでに心配をしてしまうだろう。今回お話を伺ったお二方はこうした「外部者」としてのハードルを乗り越え、素晴らしい研究を行っていらっしゃり、その事実が、今後自分が調査をする際に自分を奮いたたせる材料になるだろうと感じた。

最後の質疑応答では、パトリックさんの「(外部から訪ねてきたフィールドワーカーだけでなく現地に住む人々であっても)誰も『内部の人』にはなれない」という言葉が印象的だった。我々は常に、全く同じコンテキストを持つことはなく、多かれ少なかれ差異を持ちながらコミュニケーションを図っている。外部であるだとか、比較的内部よりであるだとか、あまり考えすぎず、あくまで誰もが皆と同化することは出来ないのであるということを頭の片隅においておくことが、調査をする上でも生活をする上でも重要であると感じた。今回こうして多くの学びを得られる、有意義な時間をご提供くださった黒坂さん、パトリックさんお二方に御礼を申し上げたい。私自身も、フィールドでの経験をもっと積んで自分なりの方法論を模索し、再びお二方と議論することができる日がくることを願う。

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報告日:2015年8月2日