つくばみらい市農業実習 2015年度第二回 報告 山田 理絵

つくばみらい市農業実習 2015年度第二回 報告 山田 理絵

日時:
2015年5月30日(土)9:25-15:00
場所:
つくばみらい市寺畑(農業実習)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」
協力:
NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」、東京大学大学院農学生命科学研究科

2015年5月30日(土)に、NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」(以下、「古瀬の会」と表記する)のご協力と農学生命科学研究科の小林和彦先生のご指導のもと、つくばみらい市にて今年度「第二回農業実習」が行われた。本企画は、プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」のプログラムの一環として2014年度から継続して行われているものであり、報告者は昨年の9月の合宿、今年4月の実習に次ぎ、3度目の参加となった。IHSからは、中島隆博先生とプログラム生2名が参加し、農学生命科学研究科の学生と共同で作業を行った。今回の作業内容は、田んぼアート用の稲を植えることと、畑の除草作業であった。当日はお天気に恵まれ過ごしやすい気温のもとで作業を行うことができた。

はじめに簡単に紹介させていただくと、「古瀬の会」は里山管理や野菜作りを行っている団体であり、農作業を通して都内の学校などとも活発な交流を行っている。その活動拠点となっているのが、「松本邸」であり、別地で江戸時代に建てられた古民家が移築されたものを、「古瀬の会」の方々が管理しながら利用されているのである。

「古瀬の会」の活動のひとつとして、2005年から「田んぼアート」が行われている。田んぼアートとは、水田に絵や文字を描く作業のことである。その仕組みは、5月頃に穂の色味が異なる数種類の稲をデザイン図に沿って水田に植えると、秋に高い場所から田んぼを眺めたときに、デザイン図に描かれた絵が水田のキャンバス上に再現されるというものである。活動をはじめるきっかけとなったのは、つくばエクスプレスが開通する頃に、「地域や会の活動自体をアピールできるものはないだろうか」という話し合いがもたれたことであった。その際、全国の様々な地域で行われている田んぼアートの中でも、青森県で行われていた事例が会員の方々の関心を集め、高架で走るつくばエクスプレスの車両から乗客がみおろすことができる田んぼアートをはじめることになったという。実習で会員の方からうかがったお話によると、田んぼアートで使用する稲は、草丈の短い種類で葉の色の違う稲(古代米)であるそうだ。

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(写真1)今年の田んぼアートのデザイン図
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(写真2)田んぼアート用の田植えの水田

写真1は、今年の田んぼアートのデザイン図である。2匹のカエルのイラストの下に「平和なみらい」という言葉が書かれている。また写真2を注意して見てみると、水田に細い串が線を描くように刺さっているのが分かる。これは、田んぼアートを描くにあたって「古瀬の会」の方々が既になさった作業のひとつで、この串を目印に2種類の稲を水田に植えていくのである。

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(写真3)田んぼアート用の稲のひとつ
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(写真4)田植えの前の説明

報告者は、はじめて田植えを行ったので、はだしで入った水田のぬかるみに足を取られてしまいそうなことが幾度もあった。稲をどのくらいの深さまで植えたら良いのか、広い作業範囲のなかで効率よく稲を植えるにはどうすればよいのか、そうしたことを「古瀬の会」の方々や小林先生に教えていただきながら、なんとか午前中の田植え作業を終えることができた。

農作業を行っている時に、小林先生から、農業研究者が実際に田畑に入って農作業を行う傾向が強い国と、研究者はほとんど田畑に入らずデータや理論のみを扱う傾向が強い国に分かれるという話をうかがった。小林先生はこのことについて、研究者自身が、農業が実際に行われる場所に入っていき現場の問題を肌で感じ、現場の感覚と理論とを相互にすり合わせながら研究を行うことで、大きな革新が生まれるのではないか、ということをおっしゃった。

お昼は、前述した古民家・松本邸に移動して、「古瀬の会」の方々と一緒に昼食をいただいた。畑で採れたお野菜や、田んぼで大切に育てられたお米を使ったお料理は、いつもとても美味しく、作業の合間のお食事は、実習に参加する際の楽しみのひとつとなっている。その間に、「古瀬の会」の初回の田んぼアートのお写真を見せていただいたり、野菜や稲を育てる際の難しさや今後の取り組みについてのお話もうかがったりした。

午後は、松本邸の向かい側にある畑に向かい、雑草を取り除く作業をお手伝いさせていただいた。この畑には、ジャガイモ、トウモロコシ、ニンジンなどが植えられており、「古瀬の会」で農業体験をする小学生たちの作業中の昼食(カレー)の材料となるそうだ。

当日の作業の全てを終えて松本邸を後にした帰り道に、小林先生にご案内いただき、独立行政法人農業環境技術研究所が管理する、つくばみらい「FACE(Free-Air CO2 Enrichment)」実験施設を見学させていただいた。この実験施設では、気候変動が作物に及ぼす影響、農耕地からの温室効果ガスの発生に及ぼす影響を分析したり、それらの影響の大きさが品種や栽培管理技術によっていかに変化するのかを分析したりするための実験が行われている。

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(写真5)FACE実験施設内の装置

(写真5)の近くにある水田では、研究員の方々が別の実験装置のメンテナンスを行っていた。小林先生によると、その装置は手作りの機械だそうで、屋外に設置されているため害獣や天候による損傷を受けてしまうが、その度に研究員によってメンテナンスや改良が行われているという。このように研究者は、機械によって収集したデータを分析することだけではなく、実際に現場に入って──そのデータがどのような装置によってどのような条件のもとで収集されているかを把握し──頭と身体を使って研究を進めることでより質の高い研究を行うことができるのだ。

古瀬の会とその関係者の皆様、小林先生をはじめ一緒に作業をさせていただいた農学生命科学研究科の皆さんに改めてお礼を申し上げます。

報告日:2015年6月15日