駒場博物館特別展『境界を引く⇔越える』関連イベント
IHS生研究紹介・参加報告 石井 智子

駒場博物館特別展『境界を引く⇔越える』関連イベント
IHS生研究紹介・参加報告
石井 智子

日時:
2015年5月30日(土)16:00-17:00
場所:
東京大学駒場博物館
講演者:
原田匠氏(工学系研究科・博士2年)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

駒場博物館特別展『境界を引く⇔越える』の関連イベントとして、IHS所属で工学系研究科博士課程の原田匠氏による東大IHS学生研究紹介が行われた。原田氏が専門とする医用工学の研究内容とその問題点、社会との関わりなどについての講演がなされた。工学が医療に貢献できる点として、高度な技術を用いた低侵襲性を実現する医療機器(治療装置、診断装置)の開発や、医療の低コスト化、高効率化のための携帯電話端末を利用したデバイスの開発、ITサービスを用いた医療の実現などが挙げられる。原田氏はその具体例として、手術支援ロボットda Vinciや内視鏡型計測システム等について紹介された。医療工学治療装置、診断装置は長い開発期間に対して独占可能期間が短いこと、安全承認に時間がかかることなどから、研究開発が商用化に繋がりにくく、特にベンチャー企業への投資文化が根付いていない日本では資金調達が難しいためその傾向が顕著であるとのことだった。また、人工知能の発達により、診断を人工知能で行う技術が開発され始めているが、ビッグデータのプライバシーをどう守ってくかという新たな問題を生んでいると話された。加えて、医師とエンジニアが連携し、意見を交換する場が少ないこと、医用工学をはじめとした学際分野の教育方法が確立していないことも問題であると指摘された。講演後の質問、ディスカッションにおいて、遺伝子診断や脳の検査など、知った場合にどう対応すべきか判断が難しい場合や、知るのが良いこととは限らない事象においては、良い技術だからといって何でも取り入れるべきとは言えないという意見が出た。

研究開発と商用化との隔たりについては、医用工学だけでなく他の分野でも同様のことが言えると思われる。大学や研究機関における研究が社会で実用化されにくかったり、企業での研究と大学や研究機関における研究が隔たったものとなったりする例は、しばしば見受けられる。産学連携の推進を行い、企業と大学、研究機関の間で共同研究を増やしたり、人材の流動性を高めたりすることにより、国全体で解決していく必要があると思われる。また、科学や医療と哲学や倫理は常に対にして考える必要があり、科学者、エンジニアや医師は知識や技術の向上による利点とその弊害を意識し、研究をどのように進めていくかを考えるべきであると感じた。そのために、患者、一般市民などとコミュニケーションをとる場を設け、科学技術、医療について正しい知識を提供するとともに、科学や医療が社会でどのような役割を果たすべきであるか意見を聞き、様々な視点から検討すべきなのではないだろうか。

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報告日:2015年5月30日