講演会「頑張らないトレーニングのあり方──十坪ジムにおける認知動作型トレーニング」報告 國重 莉奈

講演会「頑張らないトレーニングのあり方──十坪ジムにおける認知動作型トレーニング」報告 國重 莉奈

日時:
2015年6月12日(金)16:45-18:15
場所:
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1
講演:
小林寛道(東京大学名誉教授)、小林康夫(IHS/東京大学名誉教授)
使用言語:
日本語
備考:
入場無料・事前登録不要
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト1「生命のかたち」

2015年6月12日(金)、小林寛道先生(東京大学名誉教授)をお招きし、小林康夫先生(東京大学IHS・プロジェクト1)との対談「頑張らないトレーニングのあり方」が開催された。古典芸能のすり足や競歩の歩き方から始まったお話は、骨盤とインナーマッスルについて、さらには研究者としてのあり方についてなど様々な話題へと広がっていった。本報告では、講演会のテーマである認知動作型トレーニングを中心として縦横無尽に広がる寛道先生のお話を、少しでも再現できればと思う。

まず初めに競歩の歩き方について、足が長い方が有利だと言われる競歩において身長170cmの鈴木雄介選手が世界新記録を出すことができた、その動きの秘訣を教えていただいた。大事になってくるのは大腰筋と呼ばれる股関節を屈曲するときに働くインナーマッスルである。寛道先生によると、骨盤から下だけが足だと考えるのではなく、大腰筋の付け根(第12胸椎)からが「足」だということをイメージし、骨盤をやわらかく動かすことが速さの秘訣らしい。専門的な用語としては「膝腰同側型」と呼ばれる動きは、言葉で表すと先程のような「骨盤をやわらかく動かす」などのよくわからない表現になってしまう。そこで寛道先生は膝腰同側型の動きを再現できるように、特製のマシンを作ってしまったのだ。このように、これまでは天才的なスポーツ選手にしか行えなかった動きを分析し、それだけではなく、その動きを一般の人にも再現できるようにマシンを作ってしまうという発想が寛道先生のすごいところだと感じた。

今回のテーマである認知動作型トレーニングとは、身体に負荷をかける従来の「頑張る」トレーニングとは異なり、身体の上手な使い方を、寛道先生が開発したマシンを使って学習するというものである。寛道先生によると、現代人は西洋的な動きに慣れてしまい、合気道の受け身をはじめとする同側型の動きができなくなってきているが、このことは脳について考えたときに懸念すべき事態である。なぜなら、マシンを使った動きにより脳の一部が活発に働いていることが確認されたらしく、マシンに沿った動きそれ自体に脳を活発化する効果があると考えられるのだ。このように、マシンを使ったトレーニングは認知症の予防に効果的であるばかりでなく、呼吸法が改善されることにより歌が上手くなったという体験談も聞かれるなど、これによって生活のあらゆる場面が改善されることが期待される。

寛道先生はこれまでに、速く走る研究などをされてきたのだが、研究は勝つためにやっているとはっきりおっしゃっていたのが印象的だった。現在、一般に行われている研究は西洋における科学のやり方に倣うかたちで発展してきており、逆に言えば西洋的でないやり方ではインターナショナルな研究としては認められない。しかし、細かい条件設定に気を取られたり、ものごとを細かく分割して一つずつ分析したりするという西洋的な手法では勝ちにはなかなか近づけないのではというようなことをおっしゃっていた。もしかすると科学には別のかたちもあり得るのかもしれないという新たな可能性を感じた講演会であった。

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報告日:2015年6月25日