つくばみらい市農業実習 2015年度第一回 報告 藤井 祥

つくばみらい市農業実習 2015年度第一回 報告 藤井 祥

日時:
2015年4月18日(土)9:35-21:00
場所:
茨城県つくばみらい市筒戸 古民家・松本邸(実習)、つくばみらい市寺畑 寺畑ふるさと会館(総会傍聴)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス――市民社会と地域という思想」
協力:
NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」、東京大学大学院農学生命科学研究科

今回の農業実習は報告者(藤井)にとって、昨年夏の合宿に続き、2度目の参加であった。合宿後の報告書において、報告者は刈払機での除草を初めて体験した際の心境を次のように記している。

実のところ、報告者は刈払機によって大学校内が整備されるとき、生息数の減っているとされる日本の在来種タンポポ(中略)が駆除されたりするのを目撃しており、植物を研究している者として刈払機の存在をあまり好意的には見ていなかった。始めて間もないうちはやはり抵抗があり、半端に草を切っていただけだったが、作業を進めるにつれて、植物は葉を切断されてもすぐに再生するため全く効果がないと考えるようになり、しっかり地上部を切除するようにした(中略)。農地という特性上雑草は不利益しかもたらさない(中略)。全体の除草を行うためには刈払機に頼らざるをえない(後略)。

先日、再び大学での除草が行われた。またしてもタンポポやスミレたちは全滅である。もちろん、根や種子が残っていれば再び生えてくることはあるだろう。しかし、その前に、生命力の強い帰化植物やどこにでも生えているようなイネ科の植物が先に成長し、彼らの成長を阻害はしまいか。ここは農地ではない。人が安全に歩くことのできる道が確保されていれば、エネルギーと労力を使って生物の多様性を破壊することに意味はないのではないか。当然のことではあるが、便利な道具も使う場所を選ばなければならない。その判断のためには、その場所にどのような生物がいるかについて知ることが必要だろう。また、農地や、庭、空き地、山林、公園、大学といったそれぞれの環境が、どの程度生物多様性を保持できるものか、考えなければならないと感じた。今回の農業実習でも松本邸の庭を除草したが、果たしてどのような影響を残しただろう。植物学を研究する者として、生えていた植物の多様性の価値を見分ける基本的な能力、すなわち植物の識別能力やその生態の知識が欠如していることを、いたく反省させられた。

今回の実習では、茨城県つくばみらい市のNPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」(以下「古瀬の会」)のご協力の下に、松本邸の屋根に葺く萱の準備、筍の採集、先述の庭の整備と「古瀬の会」総会の傍聴を行った。茅葺き屋根の準備では、数十年前に葺かれて古くなった萱を束ね直し、腐った部分を切断するという作業を行った。束ねるときの体の使い方や、束の大きさを手で測るといった感覚が、普段作業しないものにとっていかに難しいかを実感するとともに、何十年も屋根を守り続けられる植物組織の強さと、それを再利用する技術に感服した。

「古瀬の会」の総会で印象的だった点は、「古瀬の会」が地域の不登校児童・生徒を受け入れる活動を始めたということと、都市農村共生・対流総合対策交付金事業に挑戦されていることであった。前者に関しては、「古瀬の会」を農業活動団体のようにとらえていた報告者にとって、その名のとおり文化的活動を行っている団体であることを思い知らされるものであると同時に、「文化」を柔軟に捉えて活動の幅を広げられる会員の方々への尊敬の念を抱かせるものであった。後者に関しては、事業内容もさることながら、それに取り組む会員の方の姿勢が印象に残っている。報告者は、総会後の懇親会で同事業の責任者の方(A氏)とお話しする機会に恵まれた。氏は、書類作成や金銭管理の煩雑さを嘆かれつつも,終始にこやかに話されており、「お役人はどんな細かい会計上のミスも発見する。すごいものだ」「官僚と自分たちとは考え方が全く違うが、そういう人たちとやり取りをするのはおもしろい」という旨を述べられた。考え方の違う相手に対する尊敬、そしてそのやり取りを楽しむ柔軟さと余裕こそが、多文化共生に必要なものであり、「古瀬の会」の方々はその実践者なのではないだろうか。もちろんその裏には大変な努力があることは言うまでもなく(決算期にはA氏も夜遅くまで対応に追われているとのことである)、その努力なくして尊敬の念や余裕が生まれることはない。

総会について、もう1点だけ付記しておく。それは、「古瀬の会」の女性会員の方々が、総会の冒頭、出席者数確認の際だけ議場に出てこられ、以降は懇親会のための調理に従事されていたということである。これを男女間の機会の不平等とみなすか、必要な役割分担と考えるかは、おそらく難しい問題であろう。「古瀬の会」の方々に、分担の理由について尋ねないまま、これ以上の憶測での議論を控えるとともに、懇親会でのすばらしい料理の数々を提供してくださったことに、心より感謝を申し上げたい。

総会後の懇親会では、中国出身のIHSプロジェクト2の那研究員や、台湾出身の農学生命科学研究科の学生さんを交えて、各国の情勢や漢字の読み方などについて興味深いお話をする機会があった。多様な文化的背景をもつ人々が、農業実習という1つの目的のもとに集まり、そこでそれぞれの文化について話し合い、交流を深めることができた。こういった交流はどのような学術研究分野においても可能であり、同一の対象を研究する者どうしであれば、その研究を契機として文化の壁を越えて対話する道を開く可能性をもつことを実感した実習であった。

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報告日:2015年5月2日