プログラム生自主企画:『時は廻りて 十五年目のこどもたち』上映会報告 伊藤 寧美

プログラム生自主企画:『時は廻りて 十五年目のこどもたち』上映会報告 伊藤 寧美

日時:
2015年3月7日(土)14:00-17:00
場所:
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1
上映作品:
『時は廻りて 十五年目のこどもたち』(杉田協士監督、2005年)
講演者:
杉田協士氏(映画監督)、柏木陽氏(NPO法人演劇百貨店代表)
共同企画者(順不同)
伊藤寧美、于寧、半田ゆり
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム 多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)教育プロジェクト1「生命のかたち」

本企画は、プロジェクト1の学生自主企画として立ち上げられたものである。IHSで本企画を開催する趣旨として、私は次の二点を掲げた。一点目は、アマチュアの中高生を対象とした演劇ワークショップのドキュメンタリー作品が全国的にも珍しく、かつ上映機会が少ないことである。『時は廻りて 十五年目のこどもたち』は、故如月小春氏が立ち上げた、公共施設における市民向けワークショップの先駆的事例である、兵庫県立児童館こどもの館の事業「こどもの館劇団」を捉えた作品である。本作、当事業ともに教育関係者、演劇関係者双方の注目が高く、大学という公的な場で上映機会を設ける重要性は高い。

また、鑑賞機会の少なさに表れるように、ワークショップ事業に関して関係者が外部へ情報発信をする機会、またこれら諸活動に対して学術的な観点から評価を下す機会もまた限られていた。作品鑑賞ともに、ゲストスピーカーである現こどもの館劇団指導の柏木陽氏、本作監督の杉田協士氏とフロアとのディスカッションの時間を長く設けることで、現場とアカデミアの知の交流というIHSの掲げる理念が達成されるだろうと考えた。とりわけ、未成年を対象とした芸術系ワークショップ事業がしばしば情操教育の観点から評価されがちであることを考えると、アカデミアの内外を問わず様々な立場から事業に関わる人々と意見を交わすことで、新たな評価軸を見出す契機となることが期待された。

イベントの来場者数は40数名であり、また大半が東京大学の関係者ではない方々だった。大学という学問の場を社会に開くという点で、学外から多くの来場者を迎えることができたこと、ワークショップ事業の詳細や、地域社会における文化行政の役割について活発な議論が交わされたことは大きな成果だった。一方、演劇研究者に限らず、学内からの参加が限られていたことは反省点の一つである。学内外の交流という点で、アカデミックな知識を前提としない場を作ることは大きな課題の一つであり、それはトークイベントにおいて一定程度達成されたと考えている。他方でその点が、演劇や文化行政の専門性を前提としないにもかかわらず、研究者の参加を何らかの形で阻むものであれば、むしろ学内における多文化共生の方法を模索すべきだった。

企画主催者として、イベントの焦点をどこにあわせるべきかは常に問われている課題である。今回のような、学術的議論の俎上に上がり辛く、かつ現場の人々の関心が高いという、社会的ニーズと学術的蓄積がかみ合わないテーマにおいて、研究者の課題を明確にし、かつ専門的知識を問わず広く議論の場を設ける難しさを改めて感じた。今後もこうした自主企画を立ち上げていきたいが、今回の成果と反省点を次の企画へ活かそうと思う。


報告日:2015年4月18日