Joint Seminar: The University of Tokyo-Freie Universität Berlin 報告 Lillian Tsay、藤嶋陽子、陳海茵

Joint Seminar: The University of Tokyo-Freie Universität Berlin 報告 Lillian Tsay、藤嶋陽子、陳海茵

日時:
2015年2月18日(水)~2月25日(水)
場所:
ドイツ・ベルリン
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」

本研修旅行は、ベルリン自由大学の学生たちとのプレゼンテーション・スキルを磨けるセミナー、学術交流のワークショップ、そして、ドイツ史跡訪問等の自主調査からなっている。以下より、本研修を自主調査、プレゼンテーション・セミナー、ジョイント・ワークショップの三つのパーツに分けて報告する。

自主調査

初日は自主調査の日で、研修参加者が各自の研究関心に沿った見学活動を行った。6人の研修参加者の中、Lillian Tsay, Lige Bao, Ning Yuの3人の参加者は、ベルリンから電車で一時間ぐらいかかるところにある強制収容所Sachsenhausen concentration campを見学することにした。

Sachsenhausen収容所の近くにあるOranienburg駅で降りると、のどかな郊外の風景が目に映った。駅から強制収容所までは徒歩で20分ほどの距離だった。私たちが歩いた路線は、あの時代、様々な名目で捕まった人たちが歩いたのと同じ道であるという。同じ道を歩んでも、私たちが彼らの絶望を同情することはできるが、同じような絶望を感じることは出来ないだろう。この辺りの建物は鋭い屋根をもつのが特徴である。ガイドの説明によると、ヒトラーの故郷であるオーストリアでは、大雪による災害を防ぐために鋭い屋根が作られていて、ヒトラーは自分の故郷の文化特性をそのままドイツ全土に持ち込んだのであるという。こうした思考は、すなわち過激な本質主義であり、ホロコーストの悲劇を引き起こした根源にも繋がっているのだろう。現在、この地域に住んている人たちは、こうした歴史に関する責任や真相を熟知しており、これはドイツの歴史教育の成功といえよう。

すべての強制収容所の入り口に、"Arbeit Macht Frei"というスローガンが書かれていた。「働けば自由になる」、これはナチスがついた一番の嘘だった。強制収容所の中には、様々な労働施設が残っている。今の私たち見学者にとって、それはただの古い建物しか見えないが、80年前、数えきれないほどの人たちがこれらの建物の中で殺されてしまった。昔の死体を燃やすストーブの前には、今沢山の花束が置かれている。 第二次世界大戦の時、ヨーロッパのほとんどがナチスの思想に浸透され、みんながナチスの共犯であり、誰でも戦争の責任を負っている。今の社会は、あの時代とどれほど異なるのであろうか。当時、アーリア人以外の人種は差別の対象になっていたが、今は他の基準に基づき、同質の差別化が進んでいる。今回の見学では、人間があの時代にやったことを見て、人間性に絶望を感じたが、同時に人間が自分の人道に対して犯した重罪を認め、直面する勇気から、人間性の希望を感じ取った。

プレゼンテーション・セミナー

2月20日、21日には、プレゼンテーション・セミナーが開講され、アカデミックな場面での英語でのプレゼンテーションに関するガイダンス、実践練習を、ベルリン自由大学、東京大学の研修参加者全員が受講をした。

発表の場所といった環境やカンファレンスの主旨、予想される観衆、登壇順などのプレゼンテーションを行なう際に考慮しなければいけない要素、スピーカーとして身につけるべきプレゼンテーションの構成、ボディランゲージや声のトーン、プレゼンテーションをより理解しやすく要点が伝わりやすくする方法、スライドの構成方法からディスカッション方法、発表に際しての緊張の緩和まで多岐に渡る内容をディスカッション、実践を交えながら学ぶことができた。

Joint Seminar: The University of Tokyo-Freie Universität Berlin 報告 Lillian Tsay、藤嶋陽子、陳海茵

とりわけ日本の学生にとっては課題となったのは、ボディランゲージであった。過去のプレゼンテーションの経験が、レジュメの読み上げやパソコンを見ながらのプレゼンテーションがほとんどである学生が多く、ボディランゲージを交えながらの説得力を意識したプレゼンテーションの練習は、アカデミックの場以外でも必要なスキルであり、新たな経験として非常に貴重な機会となった。

また、ほとんどの学生にとって英語でのプレゼンテーションは母国語でのプレゼンテーションとは異なる困難を伴った。わかりやすくプレゼンテーションの構成を組み立てる練習は、自分の研究を異分野の相手に伝える練習となると同時に、英語で思考しながら話す練習ともなった。また、当初は全ての学生がプレゼンテーションに対する苦手意識、緊張感を持っていたが、講義を聞くだけでなく実践の場が多様に設けられていたことで、苦手意識は緩和された。ひとりひとりが講師の先生、学生全員からフィードバックをもらう中で、話すスピードや声のトーンなどの客観的に自分自身のくせを知り、相手にわかりやすく伝えることを意識する重要性を学び、プレゼンテーションに対する意識を大きく変える2日間のセミナーとなった。

Joint Seminar: The University of Tokyo-Freie Universität Berlin 報告 Lillian Tsay、藤嶋陽子、陳海茵

ジョイント・ワークショップ

研修最終日は、ベルリン自由大学コリアンスタディーズ・インスティテュートにてジョイント・ワークショップが行われた。プレゼンターは東京大学からIHS博士課程学生3名と、ベルリン自由大学からPh. D学生3名が務め、IHS修士課程学生はディスカッサントを担当した。プレゼンテーションは、各々が取り組んでいる研究対象の紹介、調査手法、および暫定的結論と今後の計画に関する発表となった。

Joint Seminar: The University of Tokyo-Freie Universität Berlin 報告 Lillian Tsay、藤嶋陽子、陳海茵

セッション1のNarrative Inquiryでは、東京大学からは「日本の精神医療問題における"家族当事者"」に関する発表が行われ、続いてベルリン自由大学の学生からは「歴史ナラティヴの継承~南北朝鮮における独立と抵抗運動~」についての発表が行われた。その後の議論では、歴史記述の研究対象を教科書に限定せず、多様な媒体を取り入れるべきとの意見が上がった。また、"当事者"研究の発表に関しては、海外の事例を取り入れた、よりダイナミックな検討が期待された。セッション2のVoice of the Marginalisedでは、東京大学の学生より「北京における独立映画祭」の研究が紹介され、ベルリン自由大学の学生からは「韓国労働運動における女性活動家の役割」に関する発表がなされた。北京政府非公認の映画祭を組織する団体の活動に焦点を当てつつ、映画におけるクィア実践をも分析の射程を入れた研究発表は、特にベルリン自由大学側の参加者の関心を惹き、今後の分析成果を期待された。一方で、事例研究と理論的キーワード(または概念)との整合性を問い直す必要性も指摘された。労働運動における女性活動家の役割に関する発表に対しては、メディア論的視座とフェミニズム研究の視座、あるいはライフコース研究が可能である以上、研究者の立場を明示することが求められた。

セッション3のChallenges of Globalizationでは、ベルリン自由大学からは「Tumen River(中国名:図們江、韓国名:豆満江)プロジェクトをめぐる韓国と日本のアクターの活動と相互作用」、続いて東京大学からは「北京における現代"私塾"の出現にみられるボトムアップ型教育」についての発表が行われた。北朝鮮の中国、ロシアとの隣接地域であるTumen Riverを扱った発表では、関与するアクターが多様で、それぞれの利害が複雑に絡み会う地域であることから、とりわけ韓国と日本に着目する必然性が求められた。また、北京における"私塾"の発表では、事例の興味深さと研究の構成が評価され、そのうえで、ビジネスや宗教活動と教育との区別が重要になるとの指摘も得られた。

セミナー全体を振りかえると、それぞれの発表が研究背景をはじめ、手法も対象も異なるものではあったけれど、互いに共通する問題意識を有していたり、共通する研究課題を抱えていることが明らかになった。したがって、本セミナーはわれわれ学生が今後の研究活動において、国や地域を超えて知恵を出し合い、国際社会にとって有意義な研究に取り組むための意見交換をする大変貴重な契機になった。

Joint Seminar: The University of Tokyo-Freie Universität Berlin 報告 Lillian Tsay、藤嶋陽子、陳海茵

報告日:2015年3月5日