多文化共生・統合人間学演習IX(第6回)報告 前野 清太朗

多文化共生・統合人間学演習IX(第6回)報告 前野 清太朗

日時:
2014年1月9日(金)16:30−18:00
場所:
東京大学駒場キャンパス8号館205教室
講演者:
小菅新一氏(NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」事務局長)、小林和彦教授(農学生命科学研究科農学国際専攻)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」

2014年度冬学期の本連続講義も今回が第6回めである。今回の講師には、NPO「古瀬の自然と文化を守る会」(以下、「古瀬の会」)事務局長の小菅新一氏と農学生命科学研究科教授の小林和彦氏にお越しいただいた。「古瀬の会」は茨城県つくばみらい市の寺畑集落に住む住民たちを中心に、都市部で生活する児童・住民との農業交流を実施してきた団体である。今年度はIHSプログラムメンバーも農学生命科学研究科の学生たちと共同で農業体験・古民家合宿といった「古瀬の会」主催の活動に参加させていただいた。かくいう報告者も田植え・草取りなど今年度夏の農業体験に参加して「古瀬の会」メンバーの皆さんにお世話になった一人である。

今回小菅氏には「地域の力、継続の力──NPO法人『古瀬の会』のこれまでとこれから」とのタイトルで、「古瀬の会」の歩みと活動を軸に、自身の各ライフステージの出来事を絡めたお話をしていただいた。小菅氏によると、これまでフォーラムなどに呼ばれて成功した事例としての「古瀬の会」について話すことは多かったのだが、自分自身について外部で話す機会は決して多くなかったという。報告では、造園師として日本各地の古庭園を研究して回った話、地元小学校PTAの会長となって人前で話す経験を積んだ話、次の世代を担う造園の弟子をとった話、など次々に語っていただいた。

多文化共生・統合人間学演習IX(第6回)報告 前野 清太朗

「古瀬の会」は1993年に地元小学校の稲作体験イベント実施を手始めに活動を始め、2000年代からは外部との交流事業(とくに葛飾区の住民たち)を拡大してきた。外部の人びとを受け入れるに際し「古瀬の会」では、受け入れる側・やってくる側双方が疲れてしまわない対応の「自然さ」を心がけるようメンバー間で話し合ってきたという。「自然さ」とは、この地域で育ったメンバーの皆さん自身がたのしみながら外部の人びとと一緒に過ごす姿勢である。小菅氏が「農家(の跡継ぎ)というより農村地域に育った跡継ぎ」と表現するように、「古瀬の会」のメンバーの多くは家を継ぐ長男であり、農業を本職としない第二種兼業の農家である。小菅氏の言葉には、純然たる農業労働者としてより、家々の慣行と土地を守り継ぐ者として自分たちを捉えるメンバーの意識の強さが現れている。メンバー自身「も」たのしむ農業体験・農業交流のスタイルを「古瀬の会」が貫きえた背景には、メンバー間で共有された自己認識の存在があるといえるかもしれない。

小菅氏は各地の地域おこしに関するフォーラム等に参加することも少なくない。しかし同様の農業にかかわる活動を営む団体であっても、長期に活動を継続できる団体はいまだ少ないという。報告者は今後ともIHSとともに「自然な」かかわりの継続を試みてみたい。

多文化共生・統合人間学演習IX(第6回)報告 前野 清太朗

報告日:2015年1月11日