「世界銀行・国際連合・ハーバード大学等での研修」報告 波多野 綾子

「世界銀行・国際連合・ハーバード大学等での研修」報告 波多野 綾子

日時:
2014年10月18日(土)~26日(日)
場所:
ニューヨーク、ワシントンD.C.、ボストン(アメリカ合衆国)
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」

1. 総論

今次、報告者及び東京大学教員2名の計3名は、アメリカ合衆国の3都市において、大学機関、国際連合、世界銀行といった人権と開発、平和に関連する研究機関・実務機関を訪れ、セミナー等に出席するとともに、関係者との面会を行った。今回の目的は、法と開発についての理解を深めるとともに、IHSをはじめとする東大の学生の国際機関等におけるインターンや就職の可能性などを模索することである。以下、時系列に沿って今回の活動の概略を報告する。

2. ニューヨーク(10月18日~10月20日)

現地時間18日昼、ニューヨークに到着した一行は、本学博士課程出身の国連本部の方に迎えられ、同氏の経歴や現在の国連での仕事等についてお話を伺った。NYでは同氏のご紹介もあり、様々な国連関係者にお会いすることができた。

20日は、ニューヨーク大学ロースクールのフィリップ・オルストン教授と面会を行った。国際法・国際人権法の第一人者である同教授は、学問分野と実務分野で広く活躍されている方である。しかし、実務に即した研究が盛んに行われていると考えていたアメリカにおいても、実務と研究の間には乖離があると伺い、学問が本当に実務の役に立つのか(また立つべきなのか)という命題は、ここ米国においても、非常に難しい問題であることを実感させられた。ニューヨーク大学ロースクールの「Center for Human Rights and Global Justice(CHRGJ)」では、同センターの近年の注力分野やサマー・インターンの受け入れなどについてお話を伺った。

その後、国連本部にて、国連政務局アジア太平洋部門の方々との面会を行った。予防外交、平和維持、平和構築、 選挙支援を含む民主化支援といった政務局の業務領域についてお話を伺うとともに、国連事務局ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)といった国連勤務を目指す若手の登竜門についてもお話を伺った。 その後、以前本学で教鞭をとられ、報告者も授業を受けた高須幸雄国際連合事務次長(管理局長)との面会にて、高須次長の現在の業務や国連の課題などについてお話を伺った。その後、国連日本政府代表部次席常駐代表(大使)である南博氏にお会いし、国連でのインターン等の機会について意見交換を行った。その後、再び国連本部ビルに戻り、国連平和維持局のディレクターにお会いした。国際社会で生き抜いてきた実績に裏付けられ、力強い自信に満ちた御言葉に非常に強い刺激を受けた。

3. ワシントンD.C.(10月21日~10月23日)

世界銀行Law, Justice and Development Week 2014(LJD Week)は、年に1回、世界中から法と正義、開発の分野の学術・実践両方のエキスパートが集まり、グローバルな法整備支援活動と市民社会の役割をめぐる最先端の議論を行う場である。紙幅の関係で、参加した全てのセッションに関して詳細を述べることは出来ないが、報告者は主に以下のようなセッションに参加し、世界中の学術機関と実務機関の専門家と意見を交わし、多様な地域における人権の向上と社会的格差の是正について理解を深めた。

(以下は参加したセッションの一部)

ポスト2015開発アジェンダにおける経済的・社会的権利の実現
健康への権利、教育の権利など経済的・社会的権利がポスト2015開発アジェンダの中で如何に実現されていくべきかに関する課題について、欧州、東アフリカ、ラテンアメリカ等の経験から報告を受け、特に国際人権を実現するための国内における裁判判決の役割について議論を行った。

資源と収奪
世界中で資源の需要が高まる中、資源の効果的なマネジメント、特に民間企業や政府による資源収奪を如何に防ぐかも大きな問題となっている。本セッションでは、契約や法的フレームワークに加えて、市民参加による透明性の確保の方法なども議論された。

トラフィッキング:開発への脅威と人権侵害
開発と人権の観点から、トラフィッキングに関する現状、好事例とギャップ、そして今後本問題にどのように取り組んでいくべきかについて、政府、私企業、市民社会からのパネリストと参加者によって議論された。

ヘイト・クライム:コミュニティの啓発と効果的な訴追を通して、公正、正義、衡平を促進する
ヘイト・クライムについて、アメリカ及びヨーロッパのこれまでの経験(判例)や立法の経緯が紹介され、ODIHR(Office for Democratic Institutions and Human Rights)/OSCE(Organization for Security and Cooperation in Europe)、IAP(International Association of Prosecutors)が共同で作成したヘイト・クライムの訴追に関する実践ガイドが完成したことを受けて、国際的な強力も含め、司法の側面からいかに立ち向かっていくかについて議論が展開された。

ノレッジ・カフェ:持続可能な開発のための法の支配の実践について
ノレッジ・カフェとは特定のテーマについて、インタラクティブなやりとりを可能にする少人数のディスカッションを中心としたセッションである。複数のテーマが同時に設定されており、一つのテーブルには、司会者と数名のリソース・パーソンがいる。参加者は好きなテーマのテーブルを選んで座り、30分程度の議論の後、また別のテーマのテーブルに移り議論を行うという形式である。
報告者は「ジェンダー平等のための法の支配アプローチ」に関するテーブルに座り、アフガニスタンやアフリカの女性の権利等について、報告者が昨年シエラレオネで経験したUNICEFでの業務のことも含め発言し、議論に積極的に参加した。

また、本会議で出会った名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)関係の先生方、法務省やJICAの法整備支援に係る実務家の方、そして名古屋大学大学院の学生との交流からは、専門分野が重なることもあり、非常に刺激を頂いた。

4. ボストン(10月24日~10月26日)

ボストンでは、ハーバード大学ウェザーヘッド・センター日米関係プログラム エグゼクティブ・ディレクターの藤平新樹氏及びハーバード大学ライシャワー日本研究所副所長のテッド・ギルマン氏、実践的な国際保健研究の一人者であるハーバード公衆衛生大学院のマイケル・ライシュ教授と会い、意見交換を行った。人権保護につながる実践的なリサーチを実施するハーバード大学ロースクール人権プログラムも訪問し、研究員に話を伺うことができた。

24日(金)夜は、Harvard Asian Alumni Summit 2014オープニング・レセプションに参加させていただいた。多様な職に就かれているハーバード修了生や在学生に、ハーバードの教育等について様々なお話を伺うことができた。

25日(土)は、佐藤安信先生がハーバード大学留学時にお世話になったホストファミリーをご紹介いただいた。留学生はハーバードの卒業生でもあるホストファミリーから文化理解のみならず、非常に重要な精神的サポートを得られていると考えられ、我が校も制度的に参考に出来る点もあるのではないかと感じた。

5. 結語

今回の研修においては、世銀のLJD Weekにおいて、自身の研究と関連の深い法・正義・開発に関する最新の議論を学ぶことができた。学んできた学問がどのように現場にいかされているのか、現場で働く実務者や途上国から参加者の実感から実感は大きかった。また、様々な方とお会いする中で、国際社会で研究し、働くことについて学ぶ点も多かった。中でも実感したのは、人と人の個人的な信頼関係の大切さとともに、東京大学の組織としての強みである。今回のアポイントメント先は、一学生が公的なルートを通したのでは訪問することが難しい立場のある方々であり、東京大学の本プログラムの意義及び豊富な人的つながりをもつ佐藤安信先生とのつながりゆえわざわざ時間を作ってくださった方も多い。

今後、IHSが国際機関に修了生を送ることを視野に、交換留学の充実などにより国際社会で活躍できる人材育成を目指すのであれば、信頼できる個人的・組織的つながりが非常に重要である。今回のように、先生方の持つ豊富なリソースをきっかけとして、IHS生の学びにつなげ、その後IHS修了生がまた、自身の経験から後輩に指導・アドバイスをしていけるような好循環を、個人のみによらず、組織的に行っていけるような取組みが重要であると考える。そのためには、コンフリクトの解決のための多文化共生の理念を含めたIHSのもつ知識とリソースをどのように実践に結びつけていけるのかについて、東大内外での議論を深めていくとともに、今回の面会先も含め、積極的な国際発信と交流を心がけていくことが必要かと思われる。

末筆となったが、今回の研修が実現され、また実り多いものとなったのは、IHSの先生方のご支援とご協力のお陰である。この場を借りて、心より御礼を申し上げるとともに、この研修の成果を今後につなげるために尽力していきたいと考えている。

「世界銀行・国際連合・ハーバード大学等での研修」報告 波多野 綾子

報告日:2014年11月17日