非西洋諸国の法制度及び『法』に関する現象をどのように研究するか?:
マレーシアのイスラーム法を素材として 報告 小泉 佑介

非西洋諸国の法制度及び『法』に関する現象をどのように研究するか?:
マレーシアのイスラーム法を素材として 報告
小泉 佑介

日時
2014年11月12日(水)13:00−15:00
場所
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム3
講演者
桑原尚子(福山市立大学都市経営学部 准教授)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)教育プロジェクト5「多文化共生と想像力」「中東・アフリカ」ユニット

本講演会では、「法」の概念的な位置づけや,法学的な研究方法を紹介し、非西欧諸国を事例に取り上げた上で、法学的なアプローチでは実際的にどのような研究が可能であるのか、というテーマを掲げていた。特に、法学の研究方法や分析視角が、社会を法という観点からどのように観察し、経験的な情報を一般化・抽象化していく過程において、それらをどのように類型化していくのか、という点が詳細に説明されており、法学に関しては門外漢の筆者にとっても大変学ぶことの多い講演であった。

また、比較法学や開発法学、法社会学や法人類学といったように、法学的な研究には、理論的で抽象的な議論を得意とするアプローチから、ミクロな単位で対象を捉えて実証的に分析するアプローチまで、多様な分析視角が求められているという議論にも関心を抱いた。本公演でも引用されていたように、クリフォード・ギアツの解釈学的アプローチから、地域の慣習法や宗教規範を理解することが必要であることは明らかである一方で、こうした地域的な差異を一般化するための理論的で抽象的なアプローチも必要となるのであろう。時間の都合上、マレーシアのイスラーム法解釈に関する内容に入ることができず、少し残念ではあったが、イスラーム法という観点からムスリムの多い国々の法制度に関して、現代的なコンテクストを踏まえた上で考え直すことは、有意義な議論が生まれるのではないかと考えた。

今回の講演は、総じて、社会科学の方法論に関する議論であったとも言える。例えば、政治学者の久米郁夫が、著書『原因を推論する』(2013年、有斐閣)において、高い抽象度で理論化された重要な研究が、実は研究対象にどっぷり浸る(soaking and poking)手法に強い関心を抱いている、と指摘しているように、法学における様々なアプローチにおいても、理論と実態を相互に行きかうことで、社会をより深く理解することのできる研究へと繋がっていくのではないかと感じた。

報告日:2014年11月19日