顕微鏡絵画ワークショップ報告 石井 智子

顕微鏡絵画ワークショップ報告 石井 智子

日時
2014年10月27日(月)13:00-15:00
場所
社会福祉法人藍 藍工房
インストラクター
池平徹兵(OFFICE BACTERIA)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」
協力
社会福祉法人藍 藍工房

 2014年9月27日に社会福祉法人 藍工房において顕微鏡絵画ワークショップが開催された。普段藍染めや刺し子、裂織や組紐の製作を行っており、知的、精神的障がいのある藍工房の利用者の方々とともに、画家で菌膜の顕微鏡画像をモチーフとしたアクセサリーを製作するOFFICE BACTERIAを主催する池平徹兵さんのご指導のもと、様々な顕微鏡画像を参考に絵を描き、参加者全員で作品を共同製作した。

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故後の混乱やSTAP細胞問題に象徴されるように、科学の情報は研究者と社会一般の間で多くのギャップがあり、科学のあり方や、一般の人の科学技術リテラシーの不足や科学者と一般の人との科学コミュニケーション、特に科学をいかにわかりやすく一般の人に伝えるかということが昨今注目されている。科学研究に携わる者として、科学の伝え方や社会における科学のあり方を新しい視点から考えたいと思い、このワークショップに参加した。

顕微鏡絵画ワークショップ報告 石井 智子

 生命科学の研究に携わる私は、顕微鏡画像を見るとそれが生物のどの器官や組織、細胞内構造であるのか、どのような現象を表しているのかなどという科学的なことに目がいきがちであるが、藍工房の利用者を含めた参加者の皆さんが、顕微鏡画像を見て「わーきれい」とか「面白い形ですね」などとおっしゃっているのを聞いて、顕微鏡画像を科学的な面からだけでなく芸術的な面から見ることができると感じた。特に印象的だったのは、細胞分裂時に染色体が分配される際に見える紡錘体の画像を見た利用者の方がおっしゃった「釣りをする時の疑似餌みたい」という言葉であった。私の目には「紡錘体」にしか見えていなかったが、科学の専門知識のない人からは違った見方ができるのだと気付かされ、新鮮だった。

 参加者がそれぞれ顕微鏡画像をもとに絵を描いていくなかで、顕微鏡画像が芸術へと発展していく様子を見ることができた。大きな紙にそれぞれの絵が貼り付けられ、作品が少しずつ出来上がっていくと、それぞれの絵が持つ科学的意味よりも、ただただ美しいという気持ちが湧いてきた。生命の美しさや神秘性が芸術となって現れているように感じられた。

顕微鏡絵画ワークショップ報告 石井 智子

 今回のワークショップでは、顕微鏡画像を科学的な側面からだけでなく芸術面から見ることができるとわかり、新たな視点を得ることができた。もし機会があれば科学研究に携わる我々が科学の面白さや魅力を一般の人に伝え、科学を身近に感じてもらうとともに、社会における科学のあるべき姿を共に考えたいと思う。また、「科学技術と共生社会」プロジェクトとして、藍工房の利用者の方々のような障がいを持つ方々を含め、様々なバックグラウンドを持つ人々が共生する社会において、科学がどのような役割を果たせるのか、また科学ではできないこと、科学の限界について学んでいきたい。

報告日:2014年11月12日