森山明子講演会「生命のかたち──中川幸夫の天地創造」報告 半田 ゆり

森山明子講演会「生命のかたち──中川幸夫の天地創造」報告 半田 ゆり

日時
2014年10月28日(火) 16:30-18:30
場所
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム4
講演者
森山明子(武蔵野美術大学教授)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト1「生命のかたち」

IHSプロジェクト1「生命のかたち」では、10月28日に武蔵野美術大学教授の森山明子先生をお迎えし、「生命のかたち──中川幸夫の天地創造」と題した講演会を行って頂いた。本講演会は小林康夫先生の大学院授業の一貫としても行われ、多くの学生が参加した。

森山先生がいけばな作家・中川幸夫と出会ったのは、駒場キャンパスからもほど近い松濤のギャラリーTOMで、作品集『華』を手にとった時であるという。当時日経デザインに勤めていらっしゃった森山先生はすぐに取材を申し込み、以来中川が亡くなるまで、作品の題名を中川に提案するほど深い交わりを持たれてきた。

途中視聴したNHKによる中川のドキュメンタリー番組では、「天空散華」(2002年)が鮮烈な印象を残した。100万枚のチューリップの花びらを、空からヘリコプターで降らす──その中にたたずみ空を見上げる中川と、白い大きな椅子に座って踊る大野一雄の姿が目に焼き付いている。この映像を見れば、器に生けられ空間に静止するようないけばなのイメージは即座に壊れてしまうだろう。動的に、はらはらと舞い落ちる花びらを眺めながら、そういえば天からものが降ってくる事はあまりないな、などと考えていた。そこにはっきりとした形はなく、ただ花だけがあることが感じられた。

花は生ものであるから、永遠に作品を保存することはできない。森山先生によれば、だからいけばなは写真でしか残せないのだと言う。中川も自ら作品の写真を撮影していた。ただ、中川にとって写真が特殊なものだとするならば、それはもっぱら写真だけが中川のいけばなを外へと開き、他者へと提示する媒体となっていたからである。中川のいけばなは「密室の花」、「観衆のいない花」なのであるという。中川は自らの制作過程を誰にも見せなかった。それは、究極的には生けた花は中川の中にしか存在しないという事を意味する。

鑑賞者は、残された中川の写真から彼の「天地創造」がどのようなものだったかを推し量るしかないのであるが、小林先生が言われたように、「中川は誰一人のためにも花なんか生けていないのかもしれない」という意識をつねに持たざるを得ないであろう。生涯をかけてただ一人花と真摯に向き合い、その花を自らの内に秘め続けた中川幸夫の意志にわずかながら触れる事ができた講演会であった。

森山明子講演会「生命のかたち──中川幸夫の天地創造」報告 半田 ゆり
報告日:2014年11月10日