つくばみらい市農業実習 報告 于寧、前野 清太朗

つくばみらい市農業実習 報告 于寧、前野 清太朗

日時
2014年5月31日(土)9:20−14:30
場所
茨城県つくばみらい市寺畑の田圃
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス―--市民社会と地域という思想」
協力
NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」

于 寧

 当日は、晴天に恵まれ、農作業にはいい天気であったが、気温が高くて、作業者にとって、やや大変だった。参加者各位が時間どおりに小絹駅に到着し、駅前で待ち合わせをした。今回の実習地である田圃が駅から遠いところにあるため、農家主体のNPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」の会員の方々が車で参加者を圃場へ運んでくれた。圃場は首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスの高架橋のそばにあり、高架橋に電車が走っていた。

 農業実習の田圃に到着し、NPO法人「古瀬の自然と文化を守る会」の会員の方々から、本日の作業の趣旨についてご説明をいただいた。今回は田圃アートを作ると分かった。田圃アートをすることが人生初で、田圃アートという存在を知ったのもその場が初めてであった。準備作業が行われていた時に、手が空いた報告者は、5年間連続でここの田圃アートに携わってきた「古瀬の自然と文化を守る会」の会員さんをつかまえ、田圃アートに関して、いろいろ尋ねた。会員さんは田圃アートの初心者である報告者に丁寧に説明をしてくれて、その歴史や募金活動、運営の仕組みなどいろいろ教えてくれた。その後、今年の田圃アートで作る模様の図面を配っていただいた。今年は、はやりの「おもてなし」とワールドカップを融合し、サッカーボールを蹴る雌と雄の蛙二匹の絵と「おもてなし」という五文字のコンビネーションを作る。去年の作品を描いた看板がまだ立っており、内容は魚の絵と「おもいやり」五文字のコンビである。去年と今年の文字選択から、田圃アートのテーマの時代性が読み取れる。

 その後、文字の部分から田植え作業が始まった。「おもてなし」という五文字に応じて、5班に別れ、それぞれ作業場へと移動した。会員さんたちは既に杭で絵と文字の輪郭を作ってくださっていたので、本日はその輪郭に沿って、稲の苗を田圃に植えるという作業であった。田圃の規模が大きいため、図面の絵と文字の輪郭を杭で田圃に写すことはかなりハードな作業であり、会員さんによると、この作業に何日もかかったそうだ。苗はみんな緑だが、種類によって、実の色が異なる。黒、赤、黄色があるらしい。この三つの色で、絵と文字を作るのだ。この田圃アートは高いところから見るものであるが、周りに高いものがつくばエクスプレスの高架橋しかないので、「この田圃アートはつくばエクスプレスの乗客の為に作っているのですか」と訊いたら、そうだった。3年前につくばエクスプレスを使ったときに、逆方向だったので、ここの田圃を見たことがなかった。7月は見頃であると教えていただいたので、そのときに見に来たいなと思った。

 会員さんたち、また農学生命科学研究科農学国際専攻の学生さんたちと会話しながら、楽しく田植えが進んだ。報告者は中国山東省の田舎地域出身だが、北地域で、田圃がなく、畑だけである。田圃に入ったのが初めてで、田植えも初めてであった。当日は暑かったが、田圃の水が冷たくて、気持ちよかった。しかし、なかなか動きづらくて、畑での農作より遥かに大変だと実感した。また、正午になると、水も熱くなり、お風呂に入ったような感じになった。「おもてなし」の五文字を植え終え、蛙の絵にちょっと入ったところで、いったん休憩を入れ、昼ご飯を食べにいった。疲れ果てていたが、その代わりに、ご飯がいっそう美味しく食べられた。

 昼ご飯の後、もう一回田圃に入り、蛙二匹を完成して、農業実習を終えた。優しい会員さんがアイスクリームをご馳走してくれた。会員さんが日焼けを防ぐための帽子を提供してくれていたが、腕が日焼けし、赤くなった。万全な日焼け対策が必要である。

 一日中田植え作業を行い、大変疲れたが、人生初の田植え、人生初の田圃アートを体験することができ、本当に有意義な時間を過ごした。また日本と中国の農家の相違点、特に農村の共同体のあり方の違いについて自分なりの認識を持つことができた。7月に田圃アートが見えるときに、つくばエクスプレスに乗り、上から田圃アートを見るのを楽しみにしている。

報告日:2014年6月9日

つくばみらい市農業実習 報告 于寧、前野 清太朗


前野 清太朗

 報告者らはIHS「共生のプラクシス――市民社会と地域という思想」教育プロジェクト活動の一環として、本学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻「国際農業と文化ゼミナール」演習「日本の農家を知る」の農業研修へ参加した。農学生命科学研究科からは小林和彦教授(農学国際専攻)、農学国際専攻および農業・資源経済学専攻の学生ら10数名が参加した。IHSプログラムよりの参加者は村松真理子准教授、橋本悟特任講師、内藤久義「プロジェクト1」特任研究員およびプログラム生の于寧と前野清太朗である。

 研修参加者一同は9時20分に常総線小絹駅へ集合した。前日よりの晴天で気温ははや高く、早々この日の作業の大変さを思わせた。本日の活動は研修カウンターパート「NPO法人 古瀬の自然と文化を守る会」(以下、「古瀬の会」)実施の「田んぼアート」に利用する稲田の田植えである。作業場所までは「古瀬の会」スタッフの自家用車によってお送り頂いた。送迎頂いたスタッフの方のお話によると、茨城県内で行われる「田んぼアート」活動では、大型プロジェクターを利用して夜間の下絵作りを行っている場所もあるというが、「古瀬の会」の活動では今のところ昔ながらの目視測量で下絵作りを行っているという。

 今回田植えをする稲田はつくばみらい市の南方、つくばエクスプレスを脇に見据える下小目地区に位置していた。この日植えた苗が稲穂を垂れる頃には、つくばエクスプレスの車中より、メッセージとマスコットの「カエル」を望むことができるであろうとのことであった。すでに「古瀬の会」スタッフの方々のご尽力によって下絵の部分にはポイントポイントで葦枝が挿されており、私たち参加者の田植えを待つばかりであった。

 とりあえずメッセージ5文字ごと5班に分かれ作業を始めることと決まり、それぞれ「古瀬の会」スタッフに作業指導をして頂きながら泥田に入った。IHSメンバーの多くも、農学生命科学研究科の学生の多くも、かくいう報告者も恥ずかしながら田植え作業は初めてであり、泥田の中を移動するのがまず一苦労であった。いったん人の足で踏み固められてしまうと、その場に苗は植えられない。「田んぼアート」の輪郭に挿された葦を避けてはまた避け、注意して歩かなくてはならない。泥に足をとられぬよう足をはこび、腰をかがめて苗を植える、まずこの「しぐさ」に慣れることが第一の目標であった。それに慣れるまで田植え歌を口ずさむ余裕はおろか、話を交わす余裕もなかった。私たちはどうにかこうにか作業を進め、5班ともにメッセージ各文字を仕上げた。

 休憩をはさみ、「古瀬の会」より提供して頂いた冷たいお茶を飲んだ。気温はいよいよ上がり、泥田の水も熱を帯びてきた。メッセージに続いて次は参加者総出でマスコット部分の田植えにかかった。不思議と慣れはあるもので先ほどよりも調子良く作業段取りが進んでいった。時を忘れるうちに作業がひと段落したため、近隣のお宅の庭先をお借りしてお昼を頂くことになった。冬の強風を迎える北関東らしい立派な屋敷林を備えたお宅で、報告者は母屋と納屋とをじっと眺め、ひととき過去のこの地の景観へ思いを馳せてしまった。お昼は「古瀬の会」より提供頂いたコロッケ・味噌汁・ポテトサラダの献立であった。参加者一同、めいめい大きなジャーから豪快に白飯を盛り付け、おかずと一緒にかき込んだ。かつて同じ納屋の軒先で、「テツダイ」の合間に憩った人びとの光景はいかがであったのだろうか。

 午後の作業はマスコットの「カエル」2体のうち、午前に植え残ったもう1体の輪郭部分へ苗を植えていく作業であった。泥田に張られた水は、もはやぬるま湯のごとく温まっていた。慣れもあったのだろう、参加者総出で取り掛かり、1時間ばかりで輪郭部分の苗をほぼ植え終わった。苗床を片付け、泥のはねた足を洗って、再びお昼にお邪魔したお宅へと戻った。この日の作業が終了したのは14時半のことであった。午前中と同様、「古瀬の会」各メンバーの運転する自家用車に参加者一同が分乗して駅まで送って頂き、そこで解散、おのおの帰路についた。

 報告者は台湾の「むら」における「地域おこし」の研究を行っている。そこで出くわすテーマは決して明るいものでない。若者の離村と高齢化、耕作放棄地の増加、企業・工場の撤退など、「真面目に」それらの状況へ向き合えば向き合うほど心は暗く、未来を語ることへも躊躇いがちになる。しまいに報告者は「むら」にかかわることさえ辛くなることもあった。現実へ「真面目に」向き合うことは必要である。「むら」にかかわることが明るいことばかりでないのは現実だ。嘘をついて現実を隠してはならない。しかしながら、この日の作業に感じるような小さな「楽しみ」を拾い集め、「むら」に明るくかかわり続けられる条件を整えていく行程も、「真面目な」現実への向き合いとともに必要な作業と信じている。

報告日:2014年6月9日