国立台湾大学2014
Summer+ Translating Chinese: Method and Practice 報告
崎濱 紗奈

日時
2014年7月1日(火)~2014年8月9日(土)
場所
国立台湾大学
主催
Center for International Education, Office of International Affairs, National Taiwan University

 この度報告者は、IHSの支援を受け、2014年7月1日から8月9日までの約一ヶ月半、国立台湾大学にて行われたサマー・プログラム"2014 Summer+ Translating Chinese: Method and Practice"に参加する機会に恵まれた。本プログラムは、英語と中国語の相互翻訳理論を学び、実践するという内容であった。対象者は日本人学生に限られるというわけではないため、英語・中国語共に母語としない報告者にとってはハードワークであることが予想されたが、今後の研究活動等において必ずや得るものが大きいと確信し、参加を決めた。また、台湾は自身の研究(沖縄近現代思想史)にも関係の深い土地であるため、一定期間滞在して見聞を深めたいというのも動機の一つであった。

 プログラム前半は主に、翻訳理論に関する講義が行われた。講義では、ディスカッションを交えながら、小説や詩など文学作品の翻訳について検討した。受講者は、原文と英語翻訳を比較検討し、文法構造や語彙表現の差異を子細に検討することが求められた。文学作品ということもあって、単に逐語翻訳を行えばよいというわけではなく、丁寧な分析、慎重な語彙の選択が必要とされた。翻訳初心者の報告者にとっては非常に難易度が高く、翻訳という行為の難しさを体感した。

 プログラム後半は、翻訳実践に関する授業が行われた。はじめに中英翻訳、次に英中翻訳の実践に挑戦した。翻訳内容は、ニュース記事から文学作品まで多岐に渡った。文章を目で追いながら即座に翻訳していくサイト・トランスレーティングや、映像作品に字幕を付けるトレーニングを行った。特に苦労したのはサイト・トランスレーティングであった。他の参加者が英語母語話者である中で、中国語を即座に英語に翻訳するというのは報告者にとって大きなプレッシャーを伴うものであった。プログラム全過程終了日には、各参加者が、自身の翻訳字幕作品をプレゼンテーションする場が設けられた。この課題は複数人で取り組むものであったため、グループワークを通して他の参加者との交流を深めることができた。日々大変なことの連続であったが、最終日にプレゼンテーションを行ったときには、大きな達成感を得ることができた。

 また、本プログラムでは、翻訳理論・実践に関する授業以外にも、中国文化に関する講義も行われた。秦漢時代の漢文や易経、蘇軾の詩、紅楼夢など、実にバラエティーに富んだ講義内容であった。講義は中国語で行われ、その都度受講者を交えたディスカッションが盛んに行われた。印象に残ったのは、ディスカッションの一部で、グローバル社会における大学および人文学の役割が議題に上ったことである。IHSの活動に参加する中で日々直面する課題を、世界中から集まった同世代の学生たちと議論する機会を得られたことは大変刺激的な経験となった。

 そのほか、授業とは別に、課外活動を通して、故宮博物館や国家図書館を訪問した。故宮博物館では、世界最高峰の芸術・美術品に圧倒されたことはもちろん、博物館の成立背景を学ぶことを通して、台湾現代史にも触れることができた。また、国家図書館では、漢学研究センターを見学する機会にも恵まれた。利用可能な資料や、外国人研究者の受け入れ制度についての情報を得ることができた。

 今回の短期留学では、単なる語学学習というのではなく、翻訳という行為そのものについて学び実践するという貴重な経験をさせて頂いた。中国語を通して、中国・台湾文化を学んだことも、大きな収穫となった。また、授業もさることながら、参加者同士の交流からも大変刺激を受けた。特に印象的だったのは、アメリカ・カナダ・シンガポール等の地域から参加していた中華系の学生たちとの交流であった。彼らの抱える複雑な背景に触れることで、グローバリゼーションという事態を具体的に捉えることができた。また、台湾や中国大陸、韓国の学生たちと率直に意見を交換できたことも、嬉しく思った。彼・彼女らとの何気ない日常会話は、往々にして国際情勢に関する話題に発展することが多く、そうした経験を得ることができるということだけでも、留学する価値があると強く感じた。特に、東アジア情勢が緊迫する昨今、こうした地道な交流が益々重要な意味を持つだろうと確信した。改めて、この度このような機会に恵まれたことに深く感謝したい。

報告日:2014年10月12日