多文化共生・統合人間学演習II(第7回報告) 山﨑 彩

多文化共生・統合人間学演習II(第7回報告) 山﨑 彩

日時
2014年6月20日(土)16:30−18:00
場所
東京大学駒場キャンパス8号館2階209号室
講演者
金丸弘美氏(食環境ジャーナリスト・食総合プロデューサー)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)「共生のプラクシス 市民社会と地域という思想」教育プロジェクト

「共生のプラクシス」教育プロジェクトでは、6月20日(金)に食環境ジャーナリスト・食総合プロデューサーの金丸弘美氏をお迎えし、「食は地域の元気を作る」を合言葉に、「食」を通じた町おこしのために奔走していらっしゃる氏の多岐にわたる活動の一端を紹介していただいた。

まず、そもそも雑誌編集者であった金丸氏がなぜ「食」にかかわるようになったのか、その端緒について話された。それは家族の皮膚トラブルがきっかけだという。この原因が「食べもの」であるとわかったときに、自分たちの「食」について知識を深めたいと農村を訪れるようになったという。一方で農村では「消費者と対話したい」という要望があり、農村と消費者とつなぐイベント(お米ワークショップ、農村ツアー)を始めたそうである。その後、氏は家族とともに奄美諸島徳之島へ移住する。そこで「長寿の島」であるはずの奄美で肥満率が48%であるという事実に直面し、奄美で食育シンポジウムをおこなって「食」の啓発活動を行うと同時に、「ゆらしい島のスローライフツアー」と銘打ってツアーを企画するなど徳之島の町おこし活動にかかわるようになる。

その後は、金丸氏の現在の「食」にかかわる活動について説明がおこなわれた。まず、いくつかの大学において教育に携わっておられる。女子大で「きれいになる」をテーマに家政科の学生にお弁当を作らせたり、八王子の牧場でミルクの飲み比べをさせて、飼料(半分は米国からの輸入)の問題、さらには牛海綿状脳症(BSE)まで考えるなど、「参加型」の授業をおこなうという。

さらに、食総合プロデューサーとしての活動については、成功している農家のノウハウを学ぶために、現地へ行ってみる「合宿」形式のノウハウ交換会を企画されている。これは、イタリアのスローフード協会が二年に一度おこなっている「テッラ・マードレ」というイベントにヒントを得たものであるという。そして、このような「合宿」の訪問先として、長崎県大村市の「おおむら夢ファーム シュシュ」の例が紹介された。採りたての果実を使ったジェラート販売から出発し、ケーキ売り場、野菜の直売所、レストラン、農家民泊まで事業を拡大、農業の6次産業化に見事に成功した例である。

1時間では金丸氏の仕事のほんの一部を話していただくことしかできなかったように思うが、講演の後には活発な質疑応答が行われた。なかでも興味深かったのは、「金丸氏の発想の素になっているのは何か」という質問である。それに対して金丸氏は、もともとは編集者として寺山修二や唐十郎などの演劇に多く接し、それらの影響を受けて、ひとつの概念にこだわらないことや、新しい発想や変革への志向が生まれたのではないかと話された。金丸氏は、人文系の文化に精通し、「食」や「農業経済」の専門家ではなかったのだが、むしろそれを強みとして新しい発想を得て仕事をしていらっしゃる。この事実は、多様なキャリアデザインを目指すIHS生にとっても非常に参考になったのではないか。

また、「村おこし」の成功の条件として、人材教育の重要性を説いておられたのも印象に残った。金丸氏のように現場の第一線に立つ方からの「知」に学ぶことによって、IHSプログラムからも突破力のある人材が育てば良いと考えたが、そのために、この先、金丸氏の主催するワークショップに参加したり、見学させていただくという形で直接的に体験するということもプログラムとして考えられるのではないか。「共生のプラクシス」教育プロジェクトとの将来的なコラボレーションについてもいろいろと示唆的な講演会であったように思う。

多文化共生・統合人間学演習II(第7回報告) 報告 山﨑 彩

報告日:2014年6月15日