多文化共生・統合人間学演習II(第3回報告)  村松 真理子

多文化共生・統合人間学演習II(第3回報告) 村松 真理子

日時
2014年5月24日(土)15:00−19:00
場所
東京大学駒場キャンパス101号館2階研修室
講演者
石井亨氏(株式会社 人類温暖化計画 代表取締役)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)「共生のプラクシス」教育プロジェクト

瀬戸内海の国立公園内にある豊島の大量ゴミ(有害産業廃棄物)不法投棄事件について、住民運動に中心的に関わり続けている石井亨氏に講演いただいた。氏はパワーポイントを用いて多くの写真や地図、統計などを紹介しながら、ご自身の軌跡と重ねて、豊島の「事件」と島の住民運動の「歴史」と「経緯」を説明された。それに、講演会参加者との質疑応答が続いた。

石井氏の1980年代から今日にいたるまでの事件と運動の紹介は、「現場」に生活の場をおき続けた当事者の経験を理性的・分析的に語るものであり、その一連の事実とそれをめぐる報道および政治の展開に関して、多くの参加者にとって初めて知る情報が多かった。

石井氏が淡々と語られた事実経過と分析、それをめぐる質疑応答は、いかに一人の「企業家」による意図的な「不法行為」が引き金となって、今日の日本の社会においてなお、「政治」と「報道」が小さな共同体の人々の日常と生活と環境を無視するばかりか破壊することが可能か、我々の生きる「法治国家」がいかにもろく、「人権」の保証を望むという当然の努力が困難な運動と戦いの様相をとらざるをえないかを明らかにし、衝撃的であった。同時に、島民の運動と石井氏個人の歩みが、当事者以外には計り知れない苦難を越え、現在も継続されていることの大きな意味を思うとき、それは「希望」を伝えるものでもあり、かつ「思想」と「概念」が理論上のもので終わることなく、現実において実現され、日本社会において骨肉化されうるという驚きでもある。しかし、「水俣」に象徴される「公害」が、直島において「産業廃棄物」として顕在化し、現代の日本社会の構造的問題が明らかにされたにも関わらず、我々が「フクシマ」を防ぎえなかったことが講演会の最後に指摘された今日の状況である。

自分が渦中に生きた経験を、感傷や感情の負荷をかけないことばをもって語り分析しつつ、運動や地域の外にいる他者と共有することができる希有な存在である石井氏と出会い、「市民社会」「地域社会」「共同体」の「思想」に向き合いつつ東京大学で学ぼうとしている若い学生たちや研究員たちとともに語り合うことができた今回の講演会は、「社会」の「現場」に開かれた知性としての「専門家」を育成しようとするIHS の試みにおいて、非常に有意義かつ幸運な機会であったと思う。当教育プロジェクトにとって、新たな社会とアカデミズムとの関係性を模索するため、「現場」の証言に学びの場を開く試みのはじまりと位置づけられるべきだろう。

報告日:2014年6月10日