多文化共生・統合人間学演習II(第2回報告) 村松 真理子

多文化共生・統合人間学演習II(第2回報告) 村松 真理子

日時
2014年5月23日(金)16:30−18:00
場所
東京大学駒場キャンパス8号館2階209号室
講演者
高島賢氏(地域に飛び出す公務員ネットワーク会員/農林水産省消費・安全局審査官)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)「共生のプラクシス」教育プロジェクト

「食と地域振興」と題した高島氏の講演は1時間ほどの時間内に、いままで高島氏が農林水産省職員として、あるいはより個人としての立場から関わってきた事例に関して、豊富な画像をまじえて紹介するものだった。

まず地方分権と食と農をめぐって、地方振興に関する法整備(1995-2000年)と「食育基本法」(2005年)という前提があったことを説明された。つづいて、ご自身が直接地方自治体に出向して先駆的に第一線で関わった小浜市の「食のまちづくり」の事例を紹介された。農業と食育推進の関わりの重要性から、ご自身が提案した「生涯食育」というスローガンや(地域が連携した新しい食のブランド化による町おこしとしての)「B--1グランプリ」についてお話しされた。また最後に、「食」とは食品の単なる消費ではなく、味覚や「情報」のメカニズムとしてとらえるべきであり、「食」の文化を国の事業として積極的に推進しようとしているのが「和食」のユネスコ無形遺産登録であり、それをテーマとする来年のミラノ万博日本館を経産省・農林省・文化庁が連携して進めつつあることを述べられた。そして、今後の「食育」と地方を支える共同体にとって、ITやメディアをつかっていかに情報を発信するかが重要であることを強調された。

高島氏の講演は、官が国と地方レヴェルでどのように連携できるか/しているか、「食」をめぐる地方の試みや公的なイヴェントが実際にどのように企画発信されているのかに関し、法律的根拠や中央官庁と公共自治体の人材交流等の仕組みがどのように機能しているかを明らかにしつつ、あわせて氏の個人的創意や情熱と人的ネットワークが発揮されていることを具体的な事例から伝えるもので、非常に興味深かった。今後、それぞれの分野で専門家として社会に関わっていくIHS生にとっても、研究員や教員にとっても、公もしくは職業的な立場性と個人的な意思・「情熱」を両輪としながら、どうキャリアを築き、ネットワークを広げていくべきかというモデルとしても刺激的だった。高島氏は、「食」を核とする「地域振興」を進める上で、社会への発信力と教育の重要性を強調され、さらにその前提としての「哲学」や「物語」の構築の一層の必要性を指摘された。それこそIHSに期待されるものではないかという今回の講演会の結びは、これからの当プロジェクトの教育プログラムに大いに示唆を与えるものとなった。

多文化共生・統合人間学演習II(第2回報告) 報告 村松 真理子

報告日:2014年6月3日