RAMサマーキャンプ2014 報告 伊藤 寧美

RAMサマーキャンプ2014 報告 伊藤 寧美

日時
2014年7月19日(土)-21日(月)
場所
山口情報芸術センター(YCAM)
講演者
YCAM InterLab、安藤洋子(ダンサー/ザ・フォーサイス・カンパニー)ほか
主催
公益財団法人山口市文化振興財団

本研修では、山口情報芸術センター(YCAM)で行われたRAMサマーキャンプという三日間の集中ワークショップに、一般の参加者とともに参加した。ダンスとテクノロジーの新たな関係性を模索する試みを目的とし、そのテーマとしてRAM(Reactor for Awareness in Motion)と呼ばれるプロジェクトおよびそこで開発されたソフトウェアRAM Dance Toolkitが設定された。(本プロジェクトの詳細、参考映像等は次のウェブサイトより。http://interlab.ycam.jp/projects/ram

RAMとは、ザ・フォーサイス・カンパニーに所属するダンサーである安藤洋子氏と、国内外のプログラマーらを中心として、2010年から進められているプロジェクトであり、その主たる目的の一つに、ダンサーの訓練、創作のためのRAM Dance Toolkitの共同開発がある。

ダンサーの全身に取り付けたモーションキャプチャーによって得られた動きのデータを、アニメーションの形を取って画面上に映し出す。そこに「シーン」と呼ばれる何らかの視覚的なエフェクトを付与することにより、ダンサーはその画面を見て自分の動きや周囲の空間、環境を意識化し、かつその効果から新たにダンサーが動きを創発していくことにより、ソフトウェアすなわちテクノロジーとダンサーとのインタラクションが生まれていくことを期待するものである。ダンサーの身体や動きの意識化という点では訓練目的の要素が強いが、来年1月に行われる成果発表会では、Toolkitを活用した小品の発表が予定され、創作へのアプローチも試みられている。

今回のWSでは、ダンサーとプログラマーを中心とする参加者が5つのグループに分かれ、RAM Dance Toolkitの新しい「シーン」の製作を行うことが最終的な目標である。ダンサーは自らの舞台や稽古の経験から得た身体感覚の言語化が、プログラマーにはダンサーの言葉をプログラミングという形でどう具体化させるのかが求められ、当然ながらグループ内では異分野間の積極的な議論が期待される。

またグループワークの合間には、クリス・サルター氏、筧康明氏、稲見昌彦氏らによる、20世紀のダンスとテクノロジーの関わりについての歴史や、最先端の情報技術と身体の関係性に主眼を置いたアート作品や実験装置の解説といったレクチャーやシンポジウムが開催された。また安藤氏のプログラマー向けのダンスワークショップや、清水基氏のダンサー向けのプログラミングワークショップといった、ダンサー、プログラマーが相互理解を深める機会も設けられていた。

チーム単位での活動がWS期間の大半を占めるため、本報告では私が属していたチームの作業についてまとめたいと思う。

このチームは少し変則的な人数構成で、プログラマー4人、ダンサー2人と、さらに大学院生である私と、ヴィデオアーティストの方が、その他というポジションで加わっていた。この「その他」の2人はダンスやプログラミングに関して特別な技術を持たないが、舞台芸術に関するそれぞれのバックグラウンドを活かしながら、議論に貢献していた。

また、チーム内の製作方法としても、ダンサー個々人の経験や身体性のフィードバックを重視するよりも、プログラマーも意見を述べていく全体ディスカッションの時間が多く、それぞれの職能を問わず様々にアイデアを出し、吟味するというプロセスで議論が進められた。

「シーン」に関する個別のアイデアの話題に入る前に、チーム内で問題となったのはRAM Dance Toolkitを私たちはどのように定義して扱うべきか、という点である。初日のYCAM Inter Labによるプレゼンテーションでは、ダンサーの身体の意識化という訓練目的に重点を置いた説明がなされた。だが、安藤氏によるToolkitの実演では、「シーン」によって生じる画面上の視覚的効果を踏まえ次の動きを生み出していく即興性や、定められたルールや身体的な制約の中で(あるいはそれを壊して)踊っていくという遊びの要素があり、このソフトをクリエイティブな目的に使用する可能性も提示された。

議論の末に、このチームでは創作ツール、プロジェクトとしてRAMを考えよう、と方向性の道筋が定められた。そのため、アイデアの取捨選択の基準も、身体に対するクリティカルな意識の具体化が出来るかではなく、ダンサーとソフトウェアの映像を総合的に見た場合に面白いかどうか、という軸に切り替わった。また、「シーン」に関するアイデアの発案者、身体的イメージを提示する者は必ずしもダンサーに限ることはなくなり、面白さという基準でダンサーとプログラマー、その他のポジションの人間がフラットに議論が出来たのではないかと思う。

2日目に口頭プレゼンテーションを控えていたこともあり、初日に固まった3つのアイデア(最終プレゼンテーションでは4つのシーンを発表した)には、それぞれ数行のコンセプトノートと、イメージイラストを付与した。製作意図について説明が出来るように、というのが主な理由ではあったが、結果的にチーム内で各シーンの具体的な完成イメージを共有することにも有効だった。2日目から3日目にかけてはプログラマーがそれぞれ担当するシーンのプログラミングのため単独作業に入るが、作業中にチーム内で密なコミュニケーションを取らなくとも、試作品披露の段階で、当初のイメージやコンセプトから大きく外れた作品はなかった。

夕方の最終プレゼンテーションに向けて、3日目の午後はモーションセンサーを付けて実際にプログラムを動かし実験を行っていった。プログラマー達はToolkit内のテストプレイ用のダンサーのデータを使用して動作確認をしているため、実際のダンサーの動きを反映させた際には想像通りに動かない場合がある。逆に、最初に想定していた「シーン」としては未完成なプログラムでも、ダンサーが動きに工夫を着けていくことで、創造的な効果が表れる場合もあった。それら一つ一つのシーンを実際のダンサーでテストし、プログラムの修正をどう施せばよいか、またダンサーはどのような動きによって「シーン」とその身体を面白く見せることが出来るか、短い時間ながら密な議論と試行錯誤が行われた。

最終プレゼンテーションでは、各チーム製作した「シーン」を、モーションセンサーを付けたダンサーが発表し、安藤氏ら講師の方々から講評を受ける。このチームでは、初回のプレゼンテーションで発表したアイデア、コンセプトからぶれずにシーンを作り上げた点を評価された。また個々のシーンについても、改良の余地はあるにせよ、それぞれのアイデアに対する評価や、ダンス表現への発展可能性についてコメントをいただき、大変意義のあるフィードバックを得られたと思う。

「その他」枠、という特殊な立ち位置から見て、このチームの特徴というのは、職能や経験を問わず各々が等しい立ち位置で活発に議論し、最終日まで良好なコミュニケーションを取り続けたことにあるだろう。黙りっぱなしのメンバーがいなかったことも大きかった。ダンスが出来ないなりに、またプログラミングがわからないなりに、互いに面白いという軸でアイデアを出し合えたことは貴重だった。

ダンスとテクノロジーの関係性を捉えなおす、というとき、それは異なるジャンルの関係性が問題となるのではなく、とりわけ製作の現場においては、それぞれの分野に属する人間が異分野の人々と出会う契機として考えるべきだろう。今回生まれた「シーン」が、ダンスの訓練や創作において今後どのように発展していくのか、3日間のWSを終えただけでは未知数である。だが短い期間ながら、各チームでダンサー、プログラマーの初対面の参加者同士が活発にコミュニケーションを図れたという点において、異なるジャンルが交わる芸術作品創作の土壌があると確認できたことが大きな収穫の一つだった。

報告日:2014年8月25日