オーストラリア国立大学におけるAsia Pacific WeekおよびJapanese Studies Graduate Conference参加報告 陳 海茵

オーストラリア国立大学におけるAsia Pacific WeekおよびJapanese Studies Graduate Conference参加報告 陳 海茵

日時
2014年6月22日〜6月28日
場所
オーストラリア国立大学(キャンベラ、オーストラリア)

 本研修は、移動を除くと4泊5日間で構成されており、前半の3日間はAsia Pacific Week 2014という学生主体の国際会議、後半の2日間は2014 Japanese Studies Graduate Workshopという日本研究に携わる研究者や学生が集まったワークショップに参加した。以下、両者について報告を行う。

Asia Pacific Week 2014

本会議は、オーストラリア国立大学(ANU)にて1週間にわたって開かれる学生主体の国際会議である。「2014年のアジア太平洋地域を理解する」という大きな目標のもと、1日のうちに複数のセッションが設けられ、それぞれが政治・経済・環境・文化などといったテーマに特化しており、全体としてかなり幅広い領域を網羅している。各々のセッションでは、その領域においてアジア太平洋地域が抱える特殊な問題と、この地域が世界全体において果たす役割について、ANUをはじめ世界各国で活躍する研究者によるパネルディスカッションと学生による質疑応答が行われた。3日間参加した印象としては、多くのセッションが"China Power"といわれる中国経済・軍事力の台頭と今後、そして東シナ海、東南海における政治的緊張を念頭に置いて議論を展開していたように感じられる。ただし、例えば文化・ジェンダーのセッションでは、韓国の整形事情やオセアニア諸島伝統の踊りを通じた身体的政治についても議論が行われ、会議全体を俯瞰した時の関心領域は実に広く、社会学を専攻している私から見ても、新たな視点を提供してくれるような大変興味深いセッションが多かった。また、パネルディスカッションとは別に、毎日それぞれメインイベントと言われるような行事も用意されており、1日目は"War Game"、2日目はキャンベラ・ツアーと"Great Debate"が行われた。War Gameは、ある事件をきっかけにして、尖閣諸島/釣魚島をめぐる日中の緊張がピークに達したという状況が設定され、100名あまりの参加者は出身国に関係なく、中国・日本・アメリカ・オーストラリア・台湾・ベトナム・国連といったチームにランダムに振り分けられ、ロールプレイングを行った。それぞれのチームが与えられた独自の情報を活用し、状況を有利に進めるための戦略を立てたり、「外国」と交渉したりして、最後に取る「行動」に関する「声明」を発表した。キャンベラ・ツアーでは、館員の解説付きで、旧国会議事堂と国立美術館を訪れた。そして、Great Debateは、ディナーと並行して開催され、「Asia Pacific Unionは実現可能か?」というテーマに基づき、参加者3名vs.教授3名で討論が行われた。結論としては、アジア太平洋という地域をどう定義するのか(アメリカを含めるのかなど)という問題や、中国とその周辺国の政治的緊張の高まりという困難な現実の存在、EUなどの事例から地域連合形成にはデメリットも存在することを主張する意見などが目立ち、この場では「実現は難しい」という結論に至った。私が参加したのは3日間だけだったが、1週間を通じて様々なイベントがあり、寝食をともにしながら全ての参加者・主催者と交流することができるようになっていた。そして、会議開催前よりFacebookでも参加者同士が気軽に交流できるようになっているので、会議中はもちろんのこと、解散した後でも関係を継続できるので、海外で人脈をつくる良い機会にもなったと考える。

2014 Japanese Studies Graduate Workshop

本ワークショップは、日本地域に関する研究を行う修士学生・博士学生計18名と、研究者8名で行われた。1日目は、カルチュラルスタディーズ・市民社会・経済・歴史・法律・政治・言語について、それぞれのご専門の先生方による英語での講義が行われ、その後、学生の自己紹介と、ペアでの各自用意してきた研究紹介のAbstractの相互添削を行った。よりよいAbstractを書くための技術的な指導を受けたり、自分の研究を学生間や先生と共有する時間にもなった。2日目は、愛知県立大学よりお越しになった久冨木原玲氏による源氏物語における「若紫のかいま見」に関する講演と、Tessa Morris Suzuki氏と田村恵子氏による対談が開かれ、Tessa氏の生い立ちや、日本研究に目覚めたきっかけ、更には研究を行う際に直面した課題とその克服方法などについてお話いただいた。また、日本という国は、領域横断的な研究―例えば、鮭と日本人の関係性、「献血ちゃん」というゆるキャラと日本人、などが事例として挙げられていたが―を遂行するのに絶好な地域であり、21世紀はこのような研究に相応しい時代であるとおっしゃっていた。午後には、博士学生3名による研究報告が行われ、それぞれ「満州における日本人の植民地政策」、「室町時代の絵巻物に描かれた『鬼』」、「3.11に関連した日本と世界の震災文学」に関する発表で、教授によるフィードバックや質疑応答も行われ、大変興味深かった。例年は参加学生全員が研究発表をしていたが、それぞれの進捗状況にバラつきがあるため、今年からは全員で討議ができそうな研究テーマを有している博士学生だけが発表をするという形式に変更になったとのことである。個人発表はできなかったものの、問題関心が近い院生やANUの教授と自分の研究について深く議論できたし、アドバイスもいただけたので、今後の研究活動に大いに役立つ経験になったと考える。

報告日:2014年7月16日