多文化共生・統合人間学演習V(第5回報告) 星野 太

多文化共生・統合人間学演習V(第5回報告) 星野 太

日時
2014年7月12日(土)13:00-18:00
場所
東京大学駒場キャンパス駒場博物館セミナー室
講演者
伊藤元己(本学広域科学専攻教授)+加藤道夫(本学広域科学専攻教授)+小林康夫(本学超域文化科学専攻教授)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム 多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)「生命・環境」ユニット

IHS「生命のかたち」教育プロジェクトでは、7月12日(土)に本学広域科学専攻の伊藤元己先生と加藤道夫先生をお迎えし、「多文化共生・統合人間学演習V」の第5回目(最終回)の授業を行なった。この日は7名のIHS学生が参加し、加藤先生のご著書『ル・コルビュジエ――建築図が語る空間と時間』(丸善出版、2011年)と『総合芸術家ル・コルビュジエの誕生――評論家・画家・建築家』(丸善出版、2012年)を事前に読んだうえで講義に臨んだ。

この日は、まず伊藤元己先生に、駒場博物館特別展として7月19日(土)から開催される「日本の蝶」に関連した講義をしていただいた。「生物のかたち」と題された伊藤先生の講義は、「植物のかたち」と「動物のかたち」の違いに始まり、そこから、「蝶のかたち」がいかに形成されていくかという方向へと話題が展開されていった。

生物のなかでもとりわけ植物を専門とする伊藤先生によれば、動物と植物の体制はそれぞれ「分割型」と「積み木型」に分かれるという。すなわち、ともに多細胞生物である動物と植物はそれぞれの役割に応じて細胞を分化させていくが、動物においては各細胞が流動していくのに対し、細胞壁をもつ植物において細胞はただ積み上がっていくだけである。以上のような前提事項が確認されたのちに、カンブリア大爆発を契機とする多様な生物の発生や、動植物の突然変異が生まれるメカニズムなどに話は及び、最終的に蝶の変態において重要な役割を担う「成虫原基」の存在についても詳しく説明をしていただいた。

また、講義の後半には、現在展示準備中の「日本の蝶」の展示標本を特別に見せていただいた。伊藤先生によれば、ここには現存する日本の蝶が全種類(!)揃っているという。実際にさまざまな蝶の羽根を実見できたことによって、講義中に話題にのぼった羽根の「目玉」や「構造色」についても、より深い理解が得られたように思われる。

伊藤先生の講義に続き、加藤道夫先生には、ル・コルビュジエとクセナキスが設計したラ・トゥーレット修道院についてお話しいただいた。加藤先生は日本におけるル・コルビュジエ研究の第一人者であり、先に挙げた二冊のモノグラフィのほか、今学期は駒場博物館の「《終わりなきパリ》、そしてポエジー:アルベルト・ジャコメッティとパリの版画展」の関連企画として、ル・コルビュジエをめぐる講演会が駒場キャンパス18号館ホールで開催されている。IHSの「生命のかたち」プロジェクトでは、9月下旬にラ・トゥーレット修道院を含むフランス各地での研修を控えていることもあり、今回はラ・トゥーレットを中心に、ル・コルビュジエ作品を対象とする講義をしていただいた。

加藤先生とラ・トゥーレット修道院の関わりは1978年にまで遡る。当時、建築学科の「コピー課題」の題材としてラ・トゥーレットが選ばれた。ところが、ル・コルビュジエの『全作品集』に同修道院の立面図は存在せず、平面図も実現案とは異なる不正確なものであったという。その後、ル・コルビュジエ生誕100周年を記念する展覧会のために、複数の大学の協力によるル・コルビュジエの模型展が開催された。前述の経緯から、東京大学ではラ・トゥーレットの100分の1の模型を制作し、その模型は2007年の森美術館での展示を経て、現在では広島市現代美術館に収蔵されているという。

以上のように、ラ・トゥーレット修道院と長い関わりをもつ加藤先生のお話は、建築そのものはもちろんのこと、ル・コルビュジエに設計を依頼したクーチュリエ神父というキーパーソンの存在や、その実質的な設計を担当した(後の音楽家)クセナキスの思想をはじめ、この修道院をめぐる多角的な側面を浮き彫りにしていった。また講義の終盤では、クセナキスの音楽作品《メタスタシス》を実際にCDで鑑賞し、クセナキスがこの建築設計に込めた理念をさらに詳しく解説していただいた。

今回の講義は、伊藤先生による「植物」と「動物」のかたち、そして加藤先生による「建築」や「音楽」のかたちにまたがる、きわめてスケールの大きな内容であった。とはいえ、生物と人工物、自然的所産と文化的所産を「かたち」という観点から連続的に捉えるというスタンスは、本教育プロジェクトが当初より掲げていた方針のひとつである。本演習は今回の授業で最後となるが、前述のフランスでの実験実習(9月)、および身体に焦点を当てた冬学期の実験実習(10月以降)において、本演習の内容はさらに深く展開・継続されていく予定である。

報告日:2014年7月23日