目的

本イベントは、共生社会を目指すヒューマニズムの思想に基づく科学技術の構築に貢献する人材を育成するという、IHS教育プロジェクト３「科学技術と共生社会」の目標を学内外に広め、将来的にIHSに参加する可能性のある人材の獲得を目指して行ったものである。

概要

ダウン症は、1959年にはじめて報告された染色体異常であり、以来、今日に至るまで、常に新しく開発される出生前検査の主要な対象で有り続けている。すなわちそれは、ダウン症が、医学的症状を理由とする人工妊娠中絶の主要な対象で有り続けていることを意味する。しかし、一方で、1960年代以降、障がいのある人の地域生活を可能とすることを目指すノーマライゼーション運動の高まりを受けて、障がいのある子どもも家庭で養育されるようになった。欧米諸国、日本においても、ダウン症のある子どもが家庭で養育されることの方が一般的となり、現在、その経験は、様々な表象手段を用いて共有されている。母体血中の胎児のDNAを用いるという新たな技術を用いた出生前検査が臨床応用される段階に入った現代社会において、こうした親たちによるダウン症のある子との生活の表象は、人の生についての一つの重要な視座としての意味を持つものである。なぜならば、出生前検査において検討されるのは、家族の新たな成員として、どのような人を向かえるのか、という問いだからだ。これは「科学技術と共生社会」を象徴する事象である。ここでは、ダウン症のある子との生活の表象に携わってきた親達に、その活動と意義を報告して頂いた後、障がいある子との生活と出会うことと、出生前検査との関係を検討するきっかけとして、未公開の短編映画を上映した。セミナーは２２名の参加者を得、終了後も、参加者と活発な意見交換が行われる有意義な会となった。

内容

2014年3月21日から30日まで、伊藤忠 アートスクエアギャラリーにて写真展 『Shifting Perspectives ダウン症家族のまなざし』(伊藤忠アートスクエア・日本ダウン症 協会主催)が開催された。この写真展で表現された「ダウン症」のある人々に対する「親」 の「まなざし」は、医学とは異なる、他者への 「まなざし」のあり方を示している。今回のIHSプロジェクト3「科学技術と共生社会」主催セミナーでは、企画展に合わせてイギリスより来日された、写真家のFiona & Richard Bailey夫妻と、日本で 母として、ダウン症のある子の表現に関わってこられた水戸川真由美さんに、親子の生活と表現について語って頂いた。また、今回特別に、Fiona Bailey氏による作品にインスパイアされた短編映画作品を上映できることとなった。本映画、I Don't Care (邦題『私は気にしない』)は、胎児にダウン症があるかもしれないことを知った妊婦と、ダウン症のある少女とその家族の一夏の出会いを描いた作品である。この優れた短編作品は、出生前検査が、胎児を「ダウン症という小さな箱」(Bailey, 2011)にくくる時、家族の生活の中に「ダウン症」を見ることの意味を考えるきっかけを与えてくれる。撮影にはBaileyご夫妻の美しい庭が印象的なご自宅が使われた。

次第

映画：『私は気にしない (I Don't Care)』（2013)
時間：15分13秒
脚本・監督：Carolina Giametta
製作：Penny Linfield and Mary Kearns (Spool Films)
日本語字幕製作：公益財団法人　日本ダウン症協会
字幕翻訳：渡部麻衣子
製作協力：セイビン映像研究所
URL: http://www.carolinagiammetta.com/project/i-dont-care-2013/

*Shifting Perspectivesは、英国ダウン症協会主催で2005年から2013年まで展開された、ダウン症のある人の家族による写真表象プロジェクトです。
http://shiftingperspectives.org/